あたりまえ

男が扉を開けると、そこにはゴミの入った袋が置かれていた。男は舌打ちをして、家主に電話をかけた。電話が終わると、男は「ごめんなさい。」と呟いた。男は誰に対して謝ったか。

男は常識に欠けており、ゴミ出しのルールを一切把握していなかった。あろうことか、自分の部屋の前にゴミを置いておけば業者が勝手に回収してくれると思っていたのだ。しかし、これまで男の非常識さが露見したことは無かった。なぜなら、親切な隣人が男の部屋の前のゴミを出してくれていたからだ。その親切心に男が気づくこともなく、隣人は先日引っ越した。その後、男の部屋の前に置かれたゴミは、当然ながら、いつまで経っても回収されなかった。業者の不手際に腹を立てた男は家主に苦情の電話を入れたが、お前に常識はないのか、と逆に叱られてしまった。男は家主の意外な反応に驚くと同時に、今まで部屋の前のゴミを運んでくれていたのは業者ではなく隣人であることを理解した。そして、引っ越した隣人に対して迷惑をかけていたことが申し訳なくなり、「ごめんなさい。」と呟いた。