神通力

「今日は奢ってくれてありがとう！ちょうど金欠だったから助かるわ。」
オサムは満足そうに言った。ケンタはお金を数えながら
「相変わらずだな。車が好きなのはいいけど、程々にしないと、いくら金があっても足りないぞ。」
と返した。
2人は店を出て、駅に向かって歩き始めた。オサムは深刻な表情で
「もしかしてさ、先週末はA県に旅行にでも行った？」
とケンタに聞いた。
「え、行ったけど。」
「じゃあ、Bってデパートに寄らなかった？」
「は！？何で知ってんの？」
「そっか。お前のこと、見損なったわ。」
なぜ、オサムはケンタを見損なったのか？

オサムは先週の日曜日、A県にドライブに行った。その帰りにBというデパートのお土産コーナーに寄ってみると、自分好みの財布が売られていた。今使っている財布は古くなっていたため、早速購入して現金やカードを新しい財布に移した。そして、同デパートでトイレを済ませて車に乗った。その時、購入した財布が無いことに気づいた。財布をトイレに忘れて来たに違いないと思って慌てて戻ったが、すでに財布はどこにも無かった。こうして金欠になってしまったオサムは同僚のケンタに夕食を奢ってもらったのだが、ケンタは会計のときに、オサムが無くしたものと同じ種類の新品の財布を出した。さらに、ケンタは先週末にA県のBというデパートに行っていたことも分かった。したがって、ケンタが持っている財布は自分がトイレに忘れたものに違いない、と確信したため、オサムはケンタを見損なった。