とある青年グレゴリー・ザムザは、ある朝自室のベッドで目覚めると、巨大な毒虫に変化していた。
ザムザには、その原因がさっぱり分からなかった。
しかし彼は、自らの変身に全く心乱されることはなかった。
いったいなぜ?
転載元: 「【変化ますか?リサイクル】百分率」 作者: ねじ (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/6624
経験上、変身しても3分で人間に戻るから。
とある青年グレゴリー・ザムザは、ある朝自室のベッドで目覚めると、巨大なカニに変化していた。
固い甲殻の背中を下にして、仰向けになっていて、腹の方を見やるとぶくぶくと泡が出ているのが見えた。何とか起き上がれないかと思って、足をばたばたさせていたら、次第に泡が増えて息苦しくなってきた。
カニならば、どうしたって水が必要だ。このままだと、自分は干からびて死んでしまうのではないかと、恐怖を覚えた。
しかし数分後、突然ザムザは人間の姿に戻った。いつもより乱れた寝具が、彼の苦闘を物語っていたが、それ以外は、まるっきり、いつも通りの朝だった。
翌朝ザムザが、自室のベッドで目覚めると、今度は巨大なナメクジに変化していた。
じたばたする足はなく、腹がうねって波打つのが見えるばかり。掛け布団が滑り落ち、彼の背中の下で、シーツがぬめぬめと動いた。
起き上がろうと体をひねると、ベッドから転げ落ちたが、全く痛くない。骨のない柔らかな体というものにも利点はあるのだなと思いつつ、床の上を這おうと試みた。ようやくコツをつかんで、ずるりと進んだところで、また人間の姿に戻った。
毎朝毎朝、ザムザは多様な生物に変身した。ミミズのような下等な物から、毛むくじゃらの類人猿まで、ザムザの知る、ありとあらゆる生物になっては、元に戻ることを繰り返した。慣れてくると、時計を確認する余裕も生まれ、決まって3分かっきりで元に戻ることが判明した。
ある朝、ザムザは巨大な毒虫になっていた。
まるくふくらんだ、褐色の、弓形の固い節のある腹部と、規則正しく震える、細い針とを交互に見ながら、3分が過ぎるのを待つ。
原因なんか見当もつかないが、たかだか朝のわずかな時間、目覚めの前に夢を見たと思えば、どうということはない。
明日は一体何になるのだろうか。窓のトタン板をうちつける雨だれの音を聞きながら、彼はあくびらしき吐息をひとつ吐いた。
※一部、カフカの「変身」(中井正文 訳)のフレーズを流用しています。