カメコは自宅中の壁に
いろんな絵や文字を
描くのに夢中になっている。
しかし家族は何も咎めようとしない。
一体なぜだろう?
*タカシンさん「ウィンドウ・アーティスト」のオマージュです。タカシンさん、許可してくださいまして、どうもありがとうございます。
転載元: 「you’re my wonderwall」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/5394
:取り壊し前の家なので、好きなだけ落書きしてよかったから。
*例のごとくお暇な方用の長文解説です。
「…お母さん、壁に落書きしていい?」
「え?」私が驚いたのはその発言の内容もあるが、そもそもカメコとの会話自体が久しぶりだったからだ。カメコは中1の後半ぐらいからあまり部屋の外に出てこなくなった。一応学校には行っているので、引きこもりではないが、私たち家族との会話はほとんどなかった。家の建て替えの話が出てきたのはその頃だった。カメコにとっては生まれてからずっと住んできた家だった。ただでさえデリケートになっているカメコにその話をするのはだいぶ逡巡したが、当のカメコの反応は「別にいいんちゃう?」の一言だった。それから後も、特にカメコの様子はほぼ変わらず、食事の時だけ降りてきて、ほぼ無言で食事を終え、部屋に戻る。そんな日が続いていた。
カメコが落書きしてもいいかと聞いてきたのは、家を出る最後の日。仮住まいのマンションに移る支度をしていた時だった。「…別にいいわよ」どうせあと1日のことだ。解体業者は機械的に家を壊すだけだから気にしないだろう。数時間して、カメコは仮住まいのマンションに帰ってきた。いつものように夕ご飯を無言で食べると自分の部屋に篭った。
翌日、業者との打ち合わせのために取り壊す直前の家に行った。そう言えば、落書きしたいって言ってたな、あの子。何を描いたのかちょっと覗いてみよう。ドアを開けた途端私は絶句した。家の壁という壁にイラストが描かれていた。子どもの頃の思い出。将来の希望。夢。不安。孤独感。苛立ち。友人。そして家族。2階の自室には大きくありがとうの文字。それはカメコの心の中そのものだった。私はどれだけあの子のことを分かってあげられていたのだろう。絵と文字の圧力に押され、ただその場に呆然と立ち尽くすしかなかった。