出るって噂を聞いて、肝試しにやってきたけど、この家、本当に出るのかな?
割と最近まで使われてたっぽいけど…
*この問題は亀夫君タイプの新形式です。
皆さんは、ある家に肝試しにやってきました。
この家には霊がいます。霊とコミュニケーションを取って、成仏させてあげましょう。
*百人一首 その八十二【おもひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり】からのinspireです。
転載元: 「【HBC】【二物衝撃 No.19】Sarà perché ti amo」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/9096
この家には霊が二人いる。
まずはまみたん。
ある程度、家の様子がわかったところで、声をかけてくる。
まみたんは、もはや一般人に見えるか見えないかも自分でコントロールできるので参加者にも姿が見え、普通に話ができる。
そのまみたんは、この家の主がなかなか成仏しないということで、上司の閻魔大王に説得するように言われてこの家にやってきた。
ところで、今は、210X年。
少子高齢化が進み、健康寿命を伸ばす研究が猛スピードで進められた結果、85歳、90歳まで働き、100〜110歳まで健康に生きることも普通になってきている。
この家の主も、110歳で健康なまま没した。
この時代では普通のことである。
名前は崇禅寺莉子。それが二人目の霊である。
最初まみたんを通じて質問しているが、まみたんが経文を唱えることで、その姿も見えるようになる。
一番奥の部屋で、コンピューターの前でぼーっと座っている。
彼女とは言葉で意思疎通をすることができる。
だが、普通の質問をしても答えない。
彼女が答えるのは、「YES/NOで答えられる質問」だけである。
なぜなら、彼女は、ウミガメストだからである。
彼女のハンドルネームはgattabianca。
80年以上の伝統あるウミガメサイト「Cindy」で実に1万問以上の出題をしたらしい。
亡くなる少し前までは細々と活動を続けていたようだが、いつの間にか姿を消していたことについては、そういうこともあるだろうと誰も気に留めなかった。
崇禅寺莉子としての彼女は、公私共に満足した生涯を送ったため、なんの未練もない。
ただ、なんとかもう一度Cindyに参加したい。
その思いが未練となって、gattabiancaとしての自我だけが、成仏できず地上に残ってしまった状態である。
なので、皆さんは、「あの世」に行っても、向こうの人たちにウミガメを出題して楽しめるよ!ということをgattabiancaに教えてあげれば、gattabiancaは安心して成仏できる。
「え、っと、崇禅寺さん…?」
“Che confusione
Sarà perché ti amo
(頭ぐちゃぐちゃで もうわかんないよ
それはきっと 大好きすぎるから)”
gattabiancaは混乱している様子だった。
それが本名だということは覚えていても、その名前に答えていいのか迷っているようでもあった。
「あ、そうか、えーっとなんだっけ、gattabiancaさん?」
“È un’emozione
Che cresce piano piano
(でもだんだんと
気持ちははっきりしてくるんだ)”
gattabiancaはうなずいた。少し微笑んだようにも見えた。
「そんなことってあるんだねえ。それだけそのサイトにいたのが幸せだった?」
“È primavera
Sarà perché ti amo
(春のように幸せ
だって 愛してるから)”
gattabiancaはにっこり笑った。
「それだけのために、現世を去れなくなってしまうほどに?」
“Per far confusione
Fuori e dentro di me
(心の中も周りの世界も
もう何がなんだかわからない)”
gattabiancaは顔を上げて、まみたんのことをじっと見つめた
「ずっとそこにいたかったんだね。でも、だんだんそこに自分の居場所は無くなっていった。」
“Cade una stella
Ma dimmi dove siamo
(星は堕ちて
ねえ あたしたちはどこにいるの?)”
gattabinacaは涙をこぼした。
「でもそんな場所が見つかったんだったら、gattabiancaさん、幸せだったんだよ。私ね、好きな人を諦められずに30年走ってた。っていうか、自分じゃその意識ないから、30年走ってたらしい、ってことなんだけど。」
“Se il mondo è matto
Che cosa c’è di strano
Almeno noi ci amiamo
(こんな「何でもあり」な世界で
何かおかしいことなんてあると思う?
「すっごい好き」それだけで良くない?)”
gattabiancaは目を見開いた。
「…行こう。で、向こうでそのウミガメとやらを出題しよう。」
“Ma dopotutto
Che cosa c’è di strano?
(ここまできて
今更何かおかしいことなんてある?)”
gattabiancaはきょとんとしていた。
「別にそれだけが未練なんだったら、それを向こうでやればいいじゃん。結構あの世もイケメン多い…ってgattabiancaさんの場合、顔は関係ないか。結構頭のいい人もいるからさ、気に入ってもらえると思う。
…いいじゃん、作ろうよ、Cindyあの世支部w」
“Se cade il mondo
Allora ci spostiamo
(世界が崩れ去ったなら
前に進めばいい)”
gattabiancaは初めて、顔を崩して笑った。
「準備できた?問題のメモはこっちのメモリに移してあるから大丈夫だよ。」
“E vola vola si sa
Sempre più in alto si va
E vola vola con me
(さあ行くよ!もっと高く!
いつだってそうやって 飛んできたんでしょ?
一緒なら どこまでも飛べるよ)”
gattabiancaはスッと立ち上がると、まみたんに手を預け、その場を立ち去った。
その立ち姿は、おおよそ110歳には見えなかった。
ディスプレイには、ただ一言、
Sarà perché ti amo!!(きっとそれは、あなたを愛しているから)
の文字が残されていた。
しかしまあ、こんなことで成仏できなくなるなんて思ってなかった。
仕事も私生活も、まあまあ満足してたのに。
初めての海外赴任を控えて、精神的に不安定になっていた折、たまたまログインしてみたのが運の尽き(?)。
気付いたら、5桁出題しているユーザーになってしまっていたw
楽しかったなあ。
問題出したり参加したり、いろいろおしゃべりしたり。
オフ会で遊んでくれた人たちもたくさんいた。
でも、だんだん、自分がサイトについていけなくなっていると感じていた。
医療が進んで、心身ともに健康なまま、長生きできるようになった。
だから私は110歳だけど、別にそんなにボケたりしてない。
でも、頭が、体が健康だからと言って、センスはそれとは全く別の問題だ。
若い人の感覚には、だんだんついていけなくなっているのがわかった。
出されている問題は、面白いのだろうということはわかるけれど、感覚がなかなかついていけない。
時代の差を感じずにはいられなかった。
自分の問題が受け入れられないと感じるのが、何より辛かった。
以前から、粗製濫造と自虐することはあったけれど、そういうのとも違う。
私が何を面白いと思っているのか、何が不思議だと思っているのか。
そして、私が何を伝えたいと思っているのか。
それが、今の世代の人たちに伝わらない。
そう感じることが辛かった。
そう思いながら、大好きなCindyに居続けることは苦痛でしかなかった。
だから、私は、まだCindyを愛しているうちに、去ることを決めた。
なーんて、私は、自分がどこの悲劇のヒロインになったつもりだと思っていたのだろうかww
今、成仏してあの世に蘇生してよくわかった。
結局、出題することは楽しい。
今のところ、口頭で楽しんでるけど、サイトを作ってくれそうな人も見つけたので、こっちでもCindyを立ち上げようかなあなんて考えている。
現世のユーザーさんたちも、こっちにきたら遊びにきてね?
その時までにはサイト作っとくから。
そうそう、まみたんちゃんも結構水平思考得意みたい。
オフ会やろうとかも乗り気っぽいw
じゃあまたね!Ciao!!
Sarà perché ti amo!!!
まみたん:閻魔大王の助手を務める永遠の女子高生。
gattabianca:Cindyユーザー。
*ハーフフィクション。
*gattabiancaの本名は、もちろん崇禅寺莉子ではない。
昔崇禅寺だか柴島だかですごい見事な桜を見たことがあったので、思いついた。
(inspire元に桜要素があった気がしてたけど、まるでなかったww)
*あ、そこ、210X年に110歳ってことは…?とか、逆算しない。ここは完全なフィクションだから。
*5桁は絶対無理ww
*Cindyに対する思いの部分は嘘ではない。
出題したり参加したりお喋りしたりオフ会したりするのは楽しい。
自分のセンスがついていけてない、って思うことも正直しょっちゅうあるし、自分の問題のポイントが周りとずれてるんだろうなあって凹む日もあります。
でも、やっぱり出題するのは楽しいし、Cindyが好き。
Sarà perché ti amo.
*Inspire元の和歌の訳:
「こんなに恋しているのに、どうしてあの人への想いは通じないのだろうか。つれないあの人をひたすら思い続けて、もう考える気力も失ってしまった。
それほど疲れ果ててしまったけど、命はなくならずにまだ堪えているというのに、堪えきれずに落ちてくるのは涙だったんだなあ。」
*詠人道因法師は、92歳という当時としては異例の長命。
80歳を過ぎてから出家し、90歳を過ぎて耳が遠くなっても歌会に出て講評を熱心に聞いていたとか、死後も千載集の選者の夢に出てきてお礼を言ったとかいう逸話が残っているらしい。
その年齢を考えると、この歌は、恋を歌ったように見せながら、「過ぎ去った人生そのものへの哀悼」を扱っているとする解釈もあるらしい。
*なお、ストーリィ部分に使った “Sarà perché ti amo”のリリックス訳は、直訳ではありません。
いわゆるグルーヴ系の白猫リリックス訳であることをご了承くださいw