転載元: 「【黒ますか?オマージュ】Der Schwarzwald」 作者: ねじ (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/8025
白猫が真っ黒に汚れている様子から考えて、すべての物は森の中で真っ黒に染まってしまうと予想できた。
だからAは、白いカラスも見かけ上は黒くなっているに違いないと思い、まずは黒いカラスを探し、その中から「本当は白いカラス」を見分けようと考えた。
1週間前に山火事が起きた。
炎は三日三晩燃え盛り、猛然と黒い煙を吹き上げた。
煙は煤を含んだ雲となり、黒い雨となって落ちてきて、ようやく炎は收まった。
動物写真家のAは、昨年この森で白いカラスを撮影した。
山火事のニュースを聞き、あの希少なアルビノ(色素欠乏体)が生き延びているかどうかが気になり、様子を見にやってきた。
被災の痕も痛々しい森の奥から、カラスの鳴く声は聞こえる。
でも、姿は全く見えない。
ふと、Aの背後で聞き覚えのある声がした。
昨年の撮影の際に、Aが1ヶ月ほど間借りした家の主人の声だ。
飼い猫の名を呼んでいる。
その声に呼応するように、近くで猫の鳴き声がした。
Aは、自分にすっかり懐いていた飼い猫の、輝くような白さとふわふわの毛並みを思い浮かべつつ、視線を声の方に向けた。
しかし、そこにいたのは想像からはるかに隔たった姿の猫だった。
白くない。
真っ黒というわけでもないが、相当濃い灰色である。
猫なのに鼠色とは、何とも気の毒だ。
Aは愕然としたが、交差し合う数多の消し炭と、墨色の地面を見て納得してしまった。
こんな環境では、白猫も黒くなって当然だ。
ならば、たとえあの白いカラスがこの森に残っていたとしても、羽は汚れ、見かけ上は黒っぽくなってしまっているだろう。
そりゃあ、本当に黒いカラスよりは白いのかもしれないが。
つまり、今までのように白い羽を探しても無駄だということだ。
白いカラスを見つけたいなら、まずは黒いカラスを見つけなければならないのだろう・・・