男は転職後、悩みを抱えている。
その一つが、前よりも通勤時間がかなり長くなってしまったことだ。
まず最寄り駅までが遠いうえに、満員電車をいくつも乗り継がねばならない。
実は、男の家からすぐに乗ることができる、格安公共交通機関がある。
男がその気になれば、それに乗って目的地まで行くことができる。
男も、何度かそれを利用しようと考えたことはあるのだが、
今朝も男は歩いて駅へと向かった。
なぜだろう?
転載元: 「ドア・トゥ・ドア」 作者: 丼 (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/7817
【解答】
今はまだ乗るべき時ではない、と思えるから。
【解説】
なぜ、今朝も目覚めてしまったんだろう。
アラームの音は、いつから僕を責めたてるようになったのだろうか。
この床は、もしかしたら僕にだけ冷たいのだろうか。
埃を被った懸垂棒は、なぜあんな高いところにあるのだろうか。
この六畳一間の鳥籠の出口は、すぐそこにある。
あれにロープを一本かければいい。ネクタイでは心配だ。
ほんの数秒我慢すれば、僕の前に一艘の舟が現れる。
運賃は六文。たった200円で、僕をここから運び去ってくれる。
わかってる。わかってる、けれど。
こんな僕でも、まだ求めてくれる人がいるなら。
そして、僕が少しでも満たされたいと願うなら。
名前しか知らない貴女が、同じ世界で生きているなら。
この世界にもう少しだけ、期待してみよう。
視線を下ろし、定期券を手に取って見つめた。
印刷された文字は掠れていて、今にも擦り切れそうだった。