2943年、未来都市ウミガメの郊外から見つかった謎の絵本『吾輩はご注文の多い兎ですか?』
すぐさま国民保護AIシステム 通称「甲羅」によって、この絵本は「凶悪な有害図書」と指定されたが、事態は既に手遅れだった。
文系ますか?Q1の「2943年」と「本」という組み合わせにインスパイアされた問題です。
転載元: 「文系ますか?Q1ノーキンさんのオマージュ(ほぼインスパイア)「失楽園」」 作者: FCK (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/7502
絵本「吾輩はご注文の多い兎ですか?」を読んだことで、本は人々に「どうして?」という知的好奇心を与えた。
洗練された未来都市ウミガメは「甲羅」による完全統制社会が築かれていた。それは正しい知性、正しい品行、正しい選択、正しい世の中…ありとあらゆるところで「効率と正しさ」のみが求められる世界。人口増加に伴う食糧不足の為、若い労働力以外は「間引き」され、人々はAIの正しい指示に従うままの幸せな奴隷となって、無色透明な日々を送っていた。そんな完璧な楽園にある「異物」が迷い込む。「吾輩はご注文の多い兎ですか?」その絵本は郊外の畑から見つかったタイムカプセルに入っていた。誰が書いたのかも、いつの時代の物かもわからないその異物に、人々は夢中になった。
それは楽園を脅かす、禁断の「知恵の実」だった。
「細かい設定」
「吾輩はご注文の多い兎ですか?」は、かつてまだ人間が人間たらしめていた世界の話であった。「木組みの街」の何でも相談屋である物知りおじいちゃん「吾輩」が悩める子供達を人生から培った知恵や経験を使って助けたり、エールを送るという子供向けのお話。中でも、この先の進路を全て家の言いつけ通りに守ろうとする子供に向けた「自分の生きる人生なんだ。失敗してもいい、間違っててもいい、自分で決めなきゃ。」という名言や「ご注文の多い兎」と称される彼の「ニンジン料理の味にうるさい」と言うお話にある「僕は『ニンジン料理ってどうしてこんなに美味しいの?』って思ったから、ニンジン料理の専門家になることにしたんだ。『どうしてだろう?』から始まる知的好奇心は、人生をきっと色鮮やかにするよ」という、未来では「不必要」とされ間引きされる存在であるはずの老人の言葉は、そんなことを考えたことすらなかった人々に衝撃を与えた。
「自分たちの世界は、人生は、どうしてAIに管理されているの?」
「有害図書」はすぐさま没収されたが、もう手遅れだった。生まれて初めて知的好奇心を覚えた人々の話は、やがて街中に、世界中に口伝いで広がっていった。
「失敗してもいい、間違っててもいい、自分で決めなきゃ」
無色透明な世界はもういらない、今こそ年の劫で亀の甲を打ち破る時だ。