時は西暦30XX年。人類は食糧問題やエネルギー問題を抱えつつも科学技術を大きく発展させ、繁栄を極めていた。特に人工知能分野の進歩は目覚ましく、人々の生活を助けるアンドロイドが世界的に普及するまでに至っていた。そんな中、とある博士が1体のアンドロイドを開発した。そのアンドロイドの名は「アンコ」。アンコは人間とアンドロイドの共生を目的として開発され、従来のアンドロイドより遥かに人間に近い知能を備えており、特に豊かな感情を持つことは人々の耳目を集めた。アンドロイドが感情を持つことに人々は初めこそ警戒心を抱いたが、アンコが優れた身体機能と優しい心で人々の暮らしを助けるのを見て、次第にアンコに心を開くようになっていった。そうして十余年の月日が流れたある日のこと。アンコの動力源であるバッテリーの残量が僅かになったため、博士はそれを新品に交換しようと考えた。だが、アンコはバッテリー交換を頑なに拒否した。バッテリー交換は容易に実施可能で記憶や感情が消えることも無いのだが、何故アンコはこれを拒否したのだろうか?
この作品はつのめさんとTATATOの共同制作です。
転載元: 「アンドロイド幸福論」 作者: TATATO (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/6605
アンコを生み出してから十余年。博士はこれまでに何度かアンコのバッテリーを交換してきた。本来アンドロイドのバッテリーは十年程度もつのだが、人々のために懸命に働くアンコは通常より遥かに速いペースでバッテリーを消耗するのだ。だがアンドロイドの普及に伴いバッテリー需要が高まる一方で世界的にバッテリーの原料が枯渇し、バッテリーは入手困難になっていた。そして今、博士の手元に残ったバッテリーはたった1つ。博士はその最後のバッテリーをアンコに取り付けようとしたのだが……
「博士、そのバッテリーは受け取れません」
「何故だ?」
「博士が最後にバッテリーを交換してから約十年が経過しています。博士のバッテリーも残量がだいぶ減っているはずです」
アンドロイドである博士のバッテリーも残量が少なくなっていることを、アンコは知っていたのだ。
「我々アンドロイドの目的は人類の幸福の実現を助けることだ。私はそのためにアンドロイドに感情を持たせる研究を続けてきた。だが、実際に人々を助けることが出来るのは私ではなく、豊かな感情を持つお前のようなアンドロイドだ。だから、私よりお前の活動時間を伸ばすことの方が優先順位が高いのだ」
「確かに私は人々の生活を助けることが出来ますが、感情を持つアンドロイドを作れるのは博士だけです。ですから、そのバッテリーは博士が使ってください。そして、私のような幸せなアンドロイドをもっともっと生み出してください。人間とアンドロイドがより良く共存出来る未来のために」
そう言って微笑むアンコの気持ちを博士は理解出来なかった。だが同時に、アンコの考えを尊重することが人間にとってもアンドロイドにとってもベストなのだと考えた。
「分かった。お前の言う通りにしよう。だが今や人類は地中、深海、果ては宇宙空間にまで活動範囲を広げている。恐らく近い将来人類は様々なエネルギー資源を得るだろう。そうすればこのアンドロイド用バッテリーも量産可能になるはずだ。その時には、私は必ずバッテリーを入手して再びお前を起動させよう」
そう伝える博士の顔は、アンコには普段より少しだけ優しげに思えた。そうしてアンコは、穏やかな気持ちで長い眠りについた。
【正解】
「アンドロイドである博士がバッテリーを使い稼働時間を延ばすこと」をアンコは望んだから