過度な功利主義

………「トロッコ問題」という問題を皆さんはご存知だろうか。知らない方のために簡単に説明する。… トロッコが線路を暴走しており、線路はあなたのそばで二つに分岐している。その奥には線路上から逃げられない(とする)計6人の人間。今トロッコが進む線路の先の5人、そして分岐先の1人…あなたは、目の前のスイッチを切り替えることで、1人だけが身代わりとなることで、5人を救うことが出来る。さてあなただったらどうする？…というものだ。 極限状態に陥った人間がどのような行動を取るのか、という思考実験で用いられる問題である。………

これを読んだ少女はふと先生に、自分ならスイッチを切り替えると強く主張した。
先生が理由を尋ねると、少女は、誰も死なない選択肢は無いのだから、死ぬ人間は1人だけで良いのだ。と言い張った。
子供想いな先生は少女の言い分を尊重しつつも、少女が間違っていることを指摘し、また、本来生かすことができるかもしれない人を殺すのは、自分は可哀想だと思う。と話した。

ちなみに彼は、この後、現実に皆様ご存知トロッコ問題と似たジレンマに直面する。そしてこの時彼はスイッチを切り替えるに等しい行動の方を選んだ。

それにもかかわらず、いや、本来この問題は正解などないはずなのに、「彼が少女の間違いを指摘した」というのは、いったいどういうことだろうか。彼のその後とった行動の理由とともに考えよ。
(なお、問題文を読んでもトロッコ問題をご理解いただけない場合、各種サイトで検索することをお勧めする。)

「カメコちゃん、こんにちは。今日は調子はどうだい？」
「こんにちは先生。昨日よりはまだ良くなりました。あ。ところで、先生は『トロッコ問題』って知ってますか？」
「ああ、知ってるよ。それが何だい？」
「あれ、先生はどう思いますか？私だったら絶対に切り替えると思うんです。私はもう長くは生きられないだろうし、そんな私がもし他の苦しんでいる人を助けられるのなら、私1人を犠牲にしてでも切り替えるべきだと思うんです。」
「うーん、君は少し問題を読み違えているのではないのかな。トロッコ問題っていうのはね、本当は『あなたが分岐した線路上にいる身体的極限状態にある人間』ではなくて、『あなたは第三者として5人か1人、どちらを殺すかを選ぶ心理的極限状態にある人間』という設定での問題なんだ。例えば、僕みたいな医者もそういう決断をしなければならない時が多々ある。ただ、僕はこれから生きるかもしれない、そんな希望が少しでもあるのならその人間を自らの手で殺すのは可哀想だと思うけどね。もちろん君の意見も全うだ。とても優しい子なんだね。」
「へへ、ありがとうございます。」
実際、少女が植物状態に陥った時、子供思いな先生が家族を説得し、回復を待たず全国の危篤の患者へ臓器提供を決めたのは自然なことであった。

【解答】
医師(先生)が少女の間違いを正したのは、少女が前提条件を読み間違えていたためである。(条件1)
彼はそれを正した後、いざ少女が危篤に陥った時、少女の意向に従って少女の蘇生を諦め他の命を助ける行動に出た。(条件2)

【条件など】
① 病院内での出来事である。
② 少女が自身の境遇と問題を重ね合わせた結果トロッコ問題を歪んだ前提条件で理解している。
③ 子供想いな先生は少女の意向を尊重した。
以上の点が暴かれていればどの順番での解明でも正解とします。
(例)
①病院内で→③少女の蘇生を諦めた(条件2)→なぜ間違えたのか？→②自らの境遇と問題が重なった結果条件を読み違えたためである(条件1)

少女の言う「1人」は自身のことだ→②条件を読み間違えた(条件1)→先生が行動を変えたのは？→先生は持論の主張は強くはしていない、子供想いである→少女の意志を間違いとは思っていない→③彼女の意思を尊重した(条件2)