「俺、酒辞める。絶対辞める。金輪際辞める。」
今日も今日とて無様に酔い潰れながら宣うカメオを前に、カメコは「あ、はい、さいですかー。」と冷ややかな目で見ていた。
これまでカメオは酒のせいで痛い目を見ては冒頭の発言をして、その次の日には酒に手を出すのだ。上司にケンカを売ってクビになった日、寝タバコが原因で家が火事になりかけた日、長女が生まれたその日に泥酔しててろくに立ち会えなかった日。いつだってそうだ。
「酒飲みって人種は、どうしてこうなんだろう。あたし、旦那にする人を間違えた。絶対間違えた。」そんな後悔がカメコの日常だった。
ところがある朝、カメオに「俺、酒辞めるわ。」と言われたカメコは、「あ、今度こそは本当に酒を辞めるんだろうな。」と信じたという。
この日の朝は特に普段と変わったことは無かったようだが、いったい、なぜだろうか。
*Q17 ZENOさんのリサイクルです。
転載元: 「【酒ますか?リサイクル】Oh, boy, you've left me speechless」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/5487
:カメオが死期を悟り、そのことをカメコも理解したから。
私もよく60年もこの男と連れ添ったもんだ。病室で眠る夫のことを、私は半ば呆れながら見ていた。何度となくこの人の酒のことでは迷惑をかけられてきた。でも、1年前、大病を患ってからは、好きな酒もろくに飲めなくなった。この長期療養病棟に移ってから、もう半年になる。毎朝誰より早く病室に来ては、面会最終時間まで一緒にいる。それが私の日課になった。
でも、思えばこれまでの60年間、ここまでこの人と向き合って話してきたことがあっただろうか。たわいのない日常のこと、二人の思い出のこと。いろいろかけられてきた迷惑も、今は昔話だ。そうしているうちに、だんだん夫も元気になってきた。「また外出たら酒飲んでやるぞー」そんなことを口走ることも多くなってきた。
そんなある朝のことだった。
「なあカメコ。俺、酒辞める。絶対辞める。金輪際辞める。」
「急になんてこと言うのよ。」カメオの顔を覗き込んだ時、はっとなった。これまでのやけになっている表情とは違う。私に許しを乞う表情とも違う。なんとも言えない穏やかな表情をしているのだ。ああ、この人にはわかっているんだ。もう自分が飲めないと言うことが。
「そんなこと言わないで。好きなお酒、買って置いておきますから。」
「…ああ、そうだな…」そういって夫は窓の方を向いた。
「ちょっと買い物行ってきますね。」私は部屋を出た。上司にケンカを売ってクビになった日、寝タバコが原因で家が火事になりかけた日、長女が生まれたその日に泥酔しててろくに立ち会えなかった日。全てが昨日のことのように思い出された。今更反省したってあんたが天国に行ける訳ないじゃない。
私は、病院のベンチで声を殺して泣いた。外はいつもと何の変わりもない、普段通りの朝だった。