ショウくんのことが好きなマリちゃんは、
ショウくんと手を繋げるようになったので、
悲しみの涙を流した。
一体どういうこと?
転載元: 「幸せは歩いてこない」 作者: 「マクガフィン」 (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/4148
『簡易解説』
夫婦であり、幼い息子がいる2人。
家族で仲良く歩くときはいつも、間に息子を挟んでいたのだが、息子が亡くなってしまったために手を繋げるようになった。
それを実感した妻は、涙を流した。
リョウタが亡くなった。
それはあまりにも唐突で、葬儀の最中もまだ、どこかフィクションじみたものを感じていた。
「リョウタは私たちの自慢の息子でした。」
夫の言葉に、弔客たちは5年という短すぎる人生を嘆いた。
しかしなぜだか私の頬には、涙の筋は伝わなかった。
喪服の夫、喪服の私。駅からの帰り道、二人の間に言葉はなかった。
信じられなくて、信じたくなくて、私は下を向いたまま、いつもの公園を通り過ぎた。
ふと、右手に暖かいものが触れた。
それは夫の手だった。
暖かくて、大きくて、すべてを包み込んでくれそうな、そんな手のひら。
それが今、私の手を包んでいた。
あぁ、
と、私は思い出す。
初めてデートをした時の、彼の手の暖かさ。
私が落ち込んでいた時の、彼の手の温もり。
ウェディングドレスの私の手を握る、タキシード姿の彼。
そっか、手、こんなに優しかったんだ…
しばらく握ることがなくて、忘れていたよ。
だってここには、
二人の間にはいつも、リョウタがいた。
リョウタはもういない。
実感した途端、悲しみが、虚しさが、溢れ出して止まらなくて、私は立ち止まる。
夫の差し出したハンカチで、自分が泣いているのだとわかった。
夫との距離は縮まっても、私の胸には埋まることのない隙間ができてしまった。
そのどこまでも純粋な喪失感で、私は涙を流した。
もう三人で歩くことはないのだと、声を出さずに泣いた。
しーあわっせはー
あーるいーてこーないー
唐突に耳に入ってきたのは、夫の声だった。
三人でよく歌ったあの歌を、途切れがちに、しぼりだすように、夫は歌っていた。
だーからあるいていくんだねっ!
リョウタの声だ。
そんなはずはないはずなのに、なぜだか私は確信していた。
そっか。そうだよね。リョウタはいつでもここにいるんだよね。
ふと自分の手を見ると、そこに暖かいものが触れた気がした。
一日一歩、三日で三歩。
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
そうだよ、私だって、前を向かなきゃいけないんだ。
「ショウくん、」
思わず声に出していた。
夫がゆっくりとこちらを向く。
「がんばらなきゃね。」
何を、なんて言わずとも、夫ははっきりと頷いた。
今度は私から手を握り、歩き出す。
さーんぽすすんで にっほすっすむー!
またもやリョウタの笑い声が聞こえた気がして、そこは下がるでしょ、と小さくささやく。
どうしたの、と振り向く夫に、なんでもない、と首を振り、また一歩前へ進む。
リョウタ、ありがとう。そして、さようなら。
私も、ショウくんも、少しずつでも、一歩ずつでも、進んでいくから。
リョウタの届かなかった毎日を、一歩ずつ。
公園のブランコが、風もないのに揺れていた。