とある港町の片隅、人通りの少ない区画に古寂びた小さなビルが建っていた。
かつてこのビルにはいくつかテナントが入っていたが、現在はとあるギャング団のアジトとして使用されていた。
今、このアジトの一室に二人の男が居る。
一方は椅子に腰掛けた老人。
長年抗争に明け暮れてきたこの男こそ、ギャング団の首領である。
そしてそのすぐそばに立つもう1人は若者。
ごく最近ギャング団に加入したばかりで、環境に慣れていないためか口数も少なく、未だ地味な仕事しか任されていなかった。
そんな新入りに向かって、首領の男がおもむろに口を開いた。
「雨は止んだのか?」
そう問われた新入りは、先刻まで霧雨が降っていたことを思い出しながら外に視線をやった。
空は相変わらず鈍色の雲に覆われていた。
さて、首領の男は一体何のためにこのような質問をしたのだろうか?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2020年2月9日(日)23時59分59秒で出題期間終了とします。
転載元: 「霧雨は止んだのか」 作者: TATATO (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/4010
【正解】
自分を捕らえた敵ギャング団の若者を窓際に立たせ、屋外から仲間に狙撃させるため。
【詳細解説】
数時間前、ギャング団の新入りは仲間達と協力して敵ギャング団の首領を拉致してきた。
すべて手筈通りに運び目当ての老人を人質として確保した彼らは、今後は敵に対して優位に立てるだろうと考え浮かれていた。
そして仲間達は新入りにその人質の見張りをするよう指示し、「コイツが何か喋っても耳を貸すな」と言い残して遊びに出掛けて行ってしまった。
その指示に従い新入りはしばらくの間老人の見張りをしていたのだが……
「雨は止んだのか?」
後ろ手に縛られ椅子に座らされた人質の老人が、外の天気を尋ねてくる。
老人は部屋の入り口に向けて座らされているため背後の窓の外は見えないのだろうが、人質に取られたこの状況で天気など気になるものだろうか。
新入りは訝しみながらも部屋の中央から窓の向こうを伺ったが、汚れた窓ガラスを隔てた外の様子は判然としなかった。
仕方無く彼は窓際まで歩み寄り、窓を開けて外の天気を確認する。
雨は止んでいた。
その時少し離れた場所から乾いた破裂音が響き渡り、次の瞬間新入りの男は床に倒れ伏した。
人質の老人は首を反らしてそれを確認すると、口の端を歪めた。
万が一の時のために靴底に発信機を仕込んでいたのが功を奏し、彼の手下が彼の居場所を突き止めて見張りの若者を狙撃したのだ。
もうじき自分を救出しにこのビルまで仲間が来るだろう。
老人はひとつ息を大きく吐くと、人生で初めての人質扱いをもう少しだけ堪能することにした。