最近、彼氏の様子が変です。
誰かに頻繁に電話をしたり、すごい怯えていたり。
知恵を貸してもらえませんか?
転載元: 「桜咲く」 作者: 白露もみじ (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/38
FA条件:廃校になれば、次の建物が建つときに、地面が掘り返されるので、校庭に埋めた死体がばれるから
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「なあ、知っているか?桜の木の下には死体が埋まっているんだよ」
いつの事だったか、優介がそんなことを言っていた記憶がある。
私は何て返したんだっけ。きっと適当に笑って、当たり障りのないことを言ったんだろう。
何でこんなことを覚えているのだろうか……何かが、何かが私の中で引っかかっていたんだ。
彼の声?彼の目線?それとも彼の表情……? ―――きっと全部だ。
何か抱え込んでいたものを、ふと無意識に言葉にしてしまったような
寂しさと苦しさと、どうにもできないあきらめの気持ちが混ざったような……
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水平高校が廃校になる。そのことを知ったとき、優介は恐怖と不安に駆られた。
廃校自体はどうでもよかった。そこまで好きな学校ではなかったから。
ただ一つだけ大きな問題があった。校庭にある桜の木の下に埋められた……
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今でも昨日のことのようにはっきりと覚えている。あの三年前の出来事。
高校まで優介は野球一筋だった。中学ではそれなりの成績を残していたし
高校も野球がそれなりに強いから選んだ。
ただ、高校野球部の監督が厳しかった。体罰も頻繁に行っていた。
延々と怒鳴られ、死ぬほど厳しい練習をやらされた。
監督はみんなから嫌われていた。俺も嫌いだった。野球部をやめてやろうと何度も思った。
それでもずっと続けてきた、3年の春。最後の大会に向けてレギュラー陣は猛練習をしていた。
じめじめとむし暑い夜だった。かなり遅くまで居残り練習をさせられていた優介たちは、監督と揉め事になった。
優介たちは殴られ、暴言を吐かれ、出場メンバーから取り消すと言われた。
我慢の限界だった。ずっと貯まっていた何かが、自分の中で爆発した。
気が付いたら、地面には頭から物凄い量の血を流して、倒れている監督がいた。
優介の手には金属バットが握られていた。みんな固まっていて、優介を見つめていた。
数秒逡巡した後、はじめて金属バットで監督を殴ったことに気が付いた。
きっと即死だったんだろう。監督はぴくりとも動かず、みるみるうちに冷たくなっていった。
その時自首するべきだったのかもしれない。ただ優介たちには冷静になれる余裕がなかった。
校庭にある桜の木の下にシャベルで穴を掘った。ただひたすら掘った。
みんなで死体をひきずり、穴に放り込んで埋めた。血の付いたバットと土も全部埋めた。
あの日、野球部の中で秘密ができた。どうしようもないほど重い秘密が。
突然監督が行方不明になり、学校は大騒ぎになった。
警察が来て聞き込みもした。優介たちは口裏を合わせて嘘をついた。
気が気じゃなかった。いつばれるかと頭がおかしくなりそうだった。
しかし、事件は解決しないまま、やがて学校は日常へと戻った。
優介は野球をやめた。もう出来る気がしなかった。
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学校が廃校になれば、やがて取り壊されるだろう。そしてそのうち、新しい建物が建つ。
その時に、きっと桜の木の下も掘り起こされる。そしたら俺たちは……俺は……
野球部のメンバーと連絡を取り合ってからも、不安と恐怖は一切なくならない。
それどころか、日に日に圧がかかっていき、胸が押しつぶされそうになる。
眩暈がする。吐き気がする。耳鳴りが強くなる。ぐるぐるぐるぐる
誰か……誰か助けて……
「優介、大丈夫?ちょっと、今にも死にそうな顔しているよ」
桜か。そういえば最近まともに話していなかった。
中学の時から一緒で、高校も一緒。大学1年の時付き合い始めた。
彼女に秘密がばれたらおしまいだ。何もなくなってしまう……
「ねえ、優介、いつの日か、桜の木の下には死体が埋まっている。って言ったよね?」
え……何を……
「本当の事、私に教えて。あなたの秘密を、苦しみを、罪を、全て共有したいの。わがままだって分かっているけど、どうしても知りたい。」
俺は久しぶりに彼女の目を正面からちゃんと見た。綺麗に澄んだその瞳を。
全て気が付いていたのか……俺はだんだん落ち着いてきた。眩暈も吐き気も、もう大丈夫だ……
「実は―――
彼らがどうなったかは分からない。でもきっと、彼は、彼女という希望がある限り、強く生きていけるだろう。