湖にぽつんと残る一隻の船。<br>
途方もない時間を経てこの船が再び動き始めたとき、人々は喜び歓喜した。
一体なぜ?
転載元: 「希望の渡り鳥」 作者: アシカ (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/37
かつて世界で三番目に大きい湖だった「水平湖」は、人間のエゴによって広大な砂漠へと姿を変えてしまっていた。19世紀前半、広大な土地を有していたラテシン共和国連邦は、利用価値の薄い湖を農業用水として利用することで、綿花の大規模生産と貿易による経済発展を目論んでいた。
その目論見は成功したかに見えたが、灌漑によって水平湖は急激に縮小、生物は急激に絶滅し、大規模な気候変動と砂煙によって多くの人々がその土地に住めなくなった。かつて漁業が盛んだった水平湖は、もはや何もない水底に点々と船が残るだけの、寂しい砂漠へと変貌していた。
ラテシン共和国連邦が崩壊してしばらくしたころ、かつての美しい湖を再び取り戻そうという計画が持ち上がった。干上がった湖を復活させるなんて、ふつうは不可能だ。多くの人々が諦めたが、一方で希望を捨てない人々もいた。教育、健康、福祉、社会を少しずつ改良しながら、人と自然が共存できる世界を夢見て努力する彼らの活動は、次第に人々の共感を得ていった。
それから途方もなく長い時間が経った。その間、人類の歴史には語りつくせぬほどの事件があったが、ともかく人類はまだ滅んでいなかった。
そして、誰もが不可能だと諦めていた遠い日の夢が、現実のものになろうとしていた。
湖に十分な水がたまり、一隻の船が浮いたとき、人々は喜び歓喜した。
渡り鳥の一団が湖で羽を休める。かつての美しい水平湖が、長年の時を経て再び蘇ったのだった。