ばあちゃんが無事に退院してから一年が過ぎ、じいちゃんからカメオ宛てにこんなメールが来た。
『ばあちゃんが『市場南病院』に入院中。カメオが見舞いに来てくれたらきっと喜ぶよ。南市場のすぐ近くだよ。』
カメオはこの前の『南一番病院』と同じく、南市場駅から地図を頼りに『市場南病院』へと向かった。
受付で部屋番号を聞き、病室を訪ねたカメオ。
前触れもなく訪れたにもかかわらず、ばあちゃんは笑顔で出迎えてくれた。
そんなばあちゃんを見たカメオは、すぐに後悔した。
何故だろう?
転載元: 「名前の紛らわしい病院に捧げるオマージュ」 作者: 丼 (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/995
市場南病院は魚市場のすぐ近くにあるせいか、南市場駅から病院までの道は商店街になっており、賑わっていた。
鮮魚店からは濃厚な磯の薫りが漂い、屋台からは炉端焼きの香ばしい煙があふれ、ウナギ屋は甘いタレの匂いを運んできた。
カメオはその中を観光気分でゆっくり歩き、市場南病院に到着した。
病室に入ると、ばあちゃんはすぐにカメオに気づいた。
カメオは嬉しそうなばあちゃんの顔を見たとき、その背後にかかげられた札に気づいて表情を失った。
札には「絶食」と書かれていた。
「あら、カメオじゃないか。……あなた……ずいぶんと美味しそうな臭いがするねぇ。」
治療のため食事禁止で点滴だけのばあちゃんに、食べ物の臭いをまとったまま会いに来てしまったカメオは、ひどく後悔した。
その翌日、じいちゃんからカメオ宛てにこんなメールが来た。
『ばあちゃんが快復して明日にも退院予定。カメオが見舞いに来てくれたからかな。』
『快気祝いは何がいいか聞いたら、「カメオの甘辛い匂いのが食べたい」そうだよ。じいちゃんには分からないから、一緒に食べに行かないかい?』