罪深い暮らしを送っていた女は、人生を生き直したいと思い、十字を切って神に祈りを捧げてきた。
しかし、女が何よりも願っていたことが叶う時、女は十字を切らずに柏手を打つことになった。
それは女が人生を生き直すため。
これからの人生に必要だったため。
なぜそんなことになったのだろう。
*過去問題のreprise(焼き直し)要素があります。
イメージソースになった問題も別にあります。
その他、inspire元諸々。
※9月30日でCindyは7周年!Happy birthday, Cindy!
転載元: 「【HBC】Addio, del passato bei sogni ridenti」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/9949
*体の目立つ場所に色とりどりの華やかな絵が描かれている女は、男の真面目な親族の前で白いウェディングドレスは着られない。
だから、神式の結婚式を選んだ。
薬物? だって、気がついたらそれが身近にあったのだもの。
犯罪? だって、その方が欲しいものが簡単に手に入るのに、なぜ真面目に働く必要があるの?
不倫? だって、お金を持っている人は既婚者が多いんだから、しかたないでしょ?
楽して華やかに生きることしか考えていなかった。
肩や背中やあちこちに色鮮やかなタトゥーを入れ、いきがっていた。
こうやって、半分道を踏み外しながら、面白おかしく生きて、そのまま死んでいければそれでいいと思っていた。
彼と出会うまでは。
私のやってきたことを本気で怒ってくれた人。
でも、これから一緒に生きて、支え合おうと誓ってくれた人。
今まで付き合ってきた男たちとは違う、真面目な人。
親きょうだいや親族も、教師、警察官、公務員などとても固い人たちばかりで、これまで私の生きてきた社会とは違っていた。
彼のために変わらなければいけないと心から誓った。
彼の生きている世界で、私も生きるんだ。
私は勉強して、きちんと毎日働いた。
生き方を悔い改めるため、教会にも通った。
全ては、彼と一緒になるため。
生まれ変わった私を見てほしいため。
彼の隣で真っ白なドレスを着ることを夢見て。
「…えーっと、純未恋はそのドレスを着て式を挙げたいの…?」
結婚の約束が決まり、訪れたウェディングフェスで嬉しそうにドレスを試着する私を見て、彼は困った顔でそう言った。
「僕は全然気にしないよ。純未恋は純未恋だし。でも、結婚式には親族が集まる予定だから…」
「小さなものでしたら、コンシーラーで隠される方とか、下着で工夫なさる方もいらっしゃいますが、お客様のように…広範囲となりますと…完全になんとかするのはなかなか…」
ウェディングコーディネーターは、言いにくそうに口籠った。
絵はいずれ全部消すつもりではいた。
でも、さすがに今からではお金も時間も間に合わない。
そして、それは単に刺青だけの問題ではなかった。
価値観は多様化しても、常識はそう簡単には変わらない
私がどれだけ新しい価値観を身に付けても、「世間一般」の常識を本当の意味では理解できていなかった。
その現実を目の当たりにして、私は言葉を失った。
俯く私に、コーディネーターは提案した。
「それでしたら、神前式で和装の結婚式はいかがでしょう?最近の流行でもありますし、白無垢でしたら露出も少なく、重ね着もいたしますので比較的見えにくいかと。」
その選択肢は考えてみたこともなかった。
確かに、さすがに和装の袖や襟元から見えるところにまで入れていない。
洗礼を受けていないとはいえ、教会には通っている身としては、複雑でもあるのだが…
「あー僕はどっちでもいいよ。大事なのは純未恋とこれから生きていくって誓うことだから。あと、きっと和装もすごく似合うよ。」
その一言で私の心は決まった。
私は彼と共に生きるんだ。
彼に、彼の世界の人たちに受け入れてもらうことは、生き直すためにはどうしても必要なことだ。
そして何より、彼が似合うと言ってくれている。
それ以外に何が必要だというの?
「ママ、あのお嫁さんきれーーい!!」
そんな子どもの声が遠くから聞こえる秋晴れの神社で、私は白無垢を着て彼の隣で柏手を打った。
この人と一緒になれて本当に良かった。
この人を幸せにできるかはわからないけれど、一緒にいれば私は幸せだ。
どうか一生この幸せが続きますよう。
金色のイチョウの葉が舞い散る中、流れる涙を私は袖でそっと拭った。
*百人一首 その九十【みせばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず】からのinspireです。