雨がザーザーと降りしきる中、たまらずに雨宿りの為にと足早に駆け込んだ喫茶店。ドアをキィっと開けた瞬間、ふわっとコーヒーの香りが鼻をくすぐった。店内はしっとりと静まり、ポツポツと会話が漏れ聞こえ、カップがカチャカチャと軽やかに鳴る音が心地よい。まるで時がゆっくりと流れているような、ホッとする空間だった。
店の奥では、マスターがサラサラとドリップコーヒーを淹れている。壁にはジリジリとアンティークの時計が刻む音。こんなに素敵な場所、また来たくなる予感がムクムクと湧き上がった。
さて、このとき私が頼んだのはテイクアウトメニュー。まだ雨はザーザー降っていて、時間はあるし不満は無かったのに、一体なぜだと思う?
*Q7 クインテールさんのリサイクルです。
転載元: 「【オノマトペますか?リサイクル】now you're lookin' pretty in a hotel bar」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/9873
*店に入った瞬間、奥の席に別れた恋人を見つけた。
向こうは気付いていない。
一度入ってしまった以上、何も頼まずに出るのも変だ。
だからテイクアウトだけして退出することにした。
もちろん何一つ「不満」などない。
まったりとした空気が流れる、雰囲気の良い店。
こんな所でほのぼのとほっこりしたデートができたらどんなに良いだろう…。
そんなことをふわふわぼんやり考えていたら、「ふふっ♡」 と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
胸がぎゅっ、と締め付けられた。
琴音。
そのチリリと鈴を降るような美しい声を聞けなくなった時、心にすん、と穴が空いた気がした。
そのキラキラしたまばゆい姿を目の前で見られなくなって、地の底にどーんと突き落とされた気分だった。
ころころと表情を変える、きょとんとした猫のような瞳。
きゅっと少し口角を上げるだけの、キリッとした微笑み。
胸をキュンとさせる、さらりとしたさりげないボディタッチ。
くるくるのウェーブのかかった、つやつやの髪。
でも、それはもう、その向かいに座っている、ここからはしゅっとした後ろ姿しか見えない、男のものだ。
これだけ距離があるのに、懐かしい香水の匂いがふわりとした気がして、一瞬くらりとした。
でも、ここにこれ以上だらだらしていてはいけない。
いつか、また、にこにこ笑えるようになって、素敵な彼女とここを訪れよう。
そのときにはたとえ琴音がここにいても、こそこそする必要なんてない。
過ぎたことなどくよくよしても仕方ない。
さっさと前に進まないと。
私は、キンキンに冷えたアイスコーヒーのカップを手に、そっと店を出た。