【ねばりますか？リサイクル】I might be okay, but I'm not fine at all

「おい、お前何買うとんねん」

いつになく強い口調の夫に、新婚の逆瀬川雲雀は驚いて振り向いた。

「納豆なんて人の食うもんちゃうやろが」

「えっ…」

さすがの逆瀬川も動揺が隠せない。

「…すまん。言いすぎたわ。でもな、これだけはどないしてもあかんねん。家に納豆があると思うだけで気ぃ悪なんねん。」

「え、そんな」

…いやいや、そういう大事なことは結婚する前に言ってくれよ。
流石に結婚してから知っても、納豆嫌いが原因で離婚とかありえないし。

確かに、大学の頃、目の前で納豆食べてたら、すごく嫌な顔をされた記憶はある。
その時は、「いや、ごめんな、俺醸造学科やから、酵母に影響与える納豆菌とかあかんねん」とか言い訳してたけど、この言い方は明らかに違う。毛嫌いとかそういうやつだ。

以後、逆瀬川は依存症的なまでに愛している納豆をどこで食べるか悩んだ。
耐えきれなくなって、夫のいないときにこっそり家で食べたこともある。
しかし、すぐバレた。

外食のメニューにも、なかなか納豆はない。
会社で食べるのも、ちょっと難しい。
逆瀬川の職場は外国人が多いので、尚更だ。

遠慮なく食べられるのは、たまに出張でビジネスホテルに泊まった時ぐらいだった。

そんなある日、逆瀬川に半年間の長期海外出張の話が舞い込んだ。

これは、チャンスだ。

現地事務所の人に、日本食材店の場所を聞く。

あった。冷凍納豆。３パック３ユーロ超。なんだそれ。

でも、背に腹は変えられない。

コンドミニアムに帰り、鍋で炊いた白ごはんの上に、納豆３パック分をぶちまける。

至福の時間が訪れた。

そして、逆瀬川はこの後もその長いキャリアを通じて、夫の目の届かない海外に赴任（出張）するたびに、たっかい納豆を食べまくることになるのである。