あゆみには一人の弟がいた。名をゆづると言う。
ゆづるは、6歳の夏に車に轢かれ亡くなった。年に一度の「らて村祭り」の帰り道だった。あゆみは、ゆづるを一人で帰らせたことを深く後悔し、悲しんだのだった。あゆみは、今となってもその時のことを思い出すのだ。
ところで、らて村祭りでの盆踊りの最中、ゆづるに
「おねえちゃん!こんなおまつりぬけだして、いっしょにかえろうよ!」と誘われた時、
あゆみはゆづるに付いていってはいけないと考えていたのだが、一体それは何故だったのだろうか。
転載元: 「おまつり 【BS問題】」 作者: Duffy (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/9409
ゆづるは、ちょうど去年の今頃に亡くなった。
帰りたいと駄々をこねるゆづるを背にりんご飴を買っている最中だった。ふと目を離すと、そこにゆづるの姿はなく、その次に見た彼は道路に横たわっていた。
あの時手を離していなければ。あの時一緒に帰っていれば。私は自分の不甲斐なさがとてつもなく悔しかった。
盆踊りは「お盆にやってきた死者を供養し、元居た世界に帰してあげる」儀式だと学校で習った。私は弟への思いも込め、今年もこのお祭りで舞い続ける。
その時。
ふと後ろを振り返ると、見覚えのある顔がこちらをじっと見つめていた。顔は青白く、足はないものの、間違いなく私の弟だった。
「おねえちゃん!こんなおまつりぬけだして、いっしょにかえろうよ!」
その甘えん坊な瞳に、ほんの少し救われた気がした。付いていったら私もゆづると同じ世界に行ってしまう。私は彼の分まで生きようと誓ったはずだ。
ううん、私はまだここにいるよ。だからまた、会おうね。
そう言って、感触がない右手を、強く握った。
【FA】あの世に帰るゆづるに付いていくと、自分も亡き者になってしまうから。