「メリークリスマス!うわあ雪だ!」
「夢みたいね。こんな日が来るなんて、考えてもみなかったよ!」
「ホワイトクリスマスね!こんなことって!」
「まるで奇跡だね!!きれい!」
山小屋風のロッジから外を見ながら、口々に大袈裟なまでの感動の言葉を口にする人々。
その中に、少し複雑な表情の男女がいた。
男「えらいこっちゃ。クリスマスに雪や。しかしなあ…」
女「そう…あなたの言いたいことはわかる。」
男「100万円w」
女「そう、100万円」
ちょっと微妙な表情をしていた二人は、顔を見合わせて笑い合った。
…まあ、笑い合ったのは結局なんだかんだ言って二人が愛し合っているからでもあるのだが、なんでそれまでそんな複雑で微妙な表情をしていたんだろう?
*12月26日(火)23時頃終了予定です。
転載元: 「【遅れて二物衝撃 No.1】I won't even wish for snow」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/9273
*「大枚叩いてクリスマスの時期に南半球(オーストラリア)に行って、なんだって雪に降られたのかw」
「たまにはクリスマスに二人で海外でも行かない?」
そう夫に声をかけてきたのは、国際協力機関で局長を務めている逆瀬川雲雀。
定年まで、もう残り数年といったところだ。
「なんや、珍しいな。」
「そう?あなたも仕事仕事でなかなか予定が取れなかったじゃないの。」
ビール会社の役員をしている夫はこの春に会社を退職した。
一人娘の玲美はカナダ人と結婚したし、親は施設に入った。
夫婦水いらずの時間も増えてきていた。
「いやいやいや、大体やな、雲雀、そもそもプライベートで海外に行くっちゅうこと自体あまりないやろ。」
「そう…そうね、言われてみれば。」
海外に長期赴任していた若い頃は、家族を呼び寄せて赴任先やその近くの国を訪問することもあったが、短期の出張や国際会議への出張こそあれ、現地事務所長ポストを最後に、仕事で海外に長期滞在することはなくなっていた。
「あのね、素敵な場所があるのよ。昔、環境開発プロジェクトを一緒に手掛けた、エコデベロッパーが手掛けたロッジ。
自然遺産の山中にあるの。
国内の観光客で大人気なので、外国人はなかなか予約の取れない高級リゾートよ。まあ私は昔のつてで取れるんだけど。」
「…なんや、結局仕事がらみやないかw
しかしなあ、ゆーても、雲雀は仕事でしか海外行かんから知らんかもやけどな、この時期の飛行機代はべらぼうな値段すんで。旅行代も、ひとり50万じゃくだらんとちゃうか?…ま、たまにはええか。」
かくして、一路オーストラリアへと旅立った逆瀬川夫妻。
飛行機を乗り継ぎ、レンタカーを駆って、山中のリゾートに向かう。
冷涼な気候。澄んだ空気。
そこは、自然と調和した、しかし本当の贅沢を感じさせる、豪華なロッジ風のエコリゾート。
「おー、ゴージャスやなあ…しかし、まあまあ冷えんなw」
「そうね。ここは南半球でも緯度が高い方だから、涼しいし、しかも山の中だからね。」
もちろん12月の日本に比べたら温度は高いものの、セーターを着ていても問題のないような気候だった。
次の日は12月24日。
偶然にも、さらに外気温は下がった。
朝食時、ダイニングルームの大きい窓から外を眺める二人の目に飛び込んできたのは、事もあろうに舞い散る雪。
オーストラリア国内から来たであろう観光客の多くは、
「メリークリスマス!うわあ雪だ!」
「夢みたいね。こんな日が来るなんて、考えてもみなかったよ!」
「ホワイトクリスマスね!こんなことって!」
「まるで奇跡だね!!きれい!」
と歓声を上げていた。
「…いや、わざわざ南半球まで来て、ホワイトクリスマスってなんちゅーことやねん」
「まあ、気温が下がることがあるとは聞いてたけど、まさか『6月』にここまでとはね。」
「えらいこっちゃ。クリスマスに雪や。しかしなあ… 別にええんやで、別に…でもな…」
「そう…言いたいことはわかる」
「100万円w」
「そう、100万円」
それは他でもない、今回ここまで来るのにわざわざかけた金額。
口ではそんなことを言ってはいても、二人にとっては、これはお金に換えられない忘れがたい経験。
いくつになったって、新しい発見も楽しいこともいくらだってあるんだ。
これから二人で楽しんでいこう。
お互いの気持ちが通じ合ったかのように、二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。