夕暮れ時。茜空。見渡す限り誰もいない公園。
世界中にシン太郎唯一人になってしまったような静けさの中、耳を澄ませると不意に足音が聞こえ振り返る。
外の道路を誰かが走っているらしい。
少しして公園の門の影に隠れ見えなかった姿が露わになる。
見知らぬ少女は立ち止まりシン太郎の方を向いて声をあげた。
「あれ?こんな所で何してるの?」
嬉しそうに微笑む名前も知らない少女の言葉に──シン太郎はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
なぜ?
転載元: 「【HBC】#3:土埃舞う公園の片隅で。【2023】」 作者: エルナト (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/9149
かくれんぼをして遊んでいたシン太郎は、少女の言葉により公園の門の影に誰かが隠れていると気付いたから。
「あれ?こんな所で何してるの?」
公園の門の前に屈み込んでいるカメオに気付き、ナナミは足を止めた。
驚いたように振り向いたカメオは、すぐさま唇に人差し指を当てて慌てたような素振りを見せる。
「へへっ、カメオ、みーつけた!」
公園の中から出てきた一人の見知らぬ少年が、いたずらっぽく笑いながら言った。
その言葉に、ナナミは自分が不味いことをしてしまったのだと気が付いた。
「ご、ごめんなさい」
「いーよ別に、気が付いたらもう暗くなってきてるし。シン太郎もそろそろ帰ろうぜ」
「んー、それもそうだな。おーい!テッコももう帰るぞー!出てこーい!」
「もー、良いところ隠れてたのに!!最後見つけてから終わろうよー!」
「あ、テッコみーつけた!」
「ちょ、せこ!卑怯者!!」
茂みの中から現れた女の子が不貞腐れながら言う。
それが、少し羨ましい。
ナナミとカメオは生まれた時から家が隣同士で、いわゆる幼馴染だった。
だから、カメオのことはよく知っているつもりだ。
でも、ナナミが私立の小学校を受験したため、最近はこんなふうにかくれんぼをして遊ぶこともない。
多分、これからも、ずっと。
「おい、何してんだよ、ナナミ」
え?、と、ナナミは顔を上げた。
カメオは不思議そうに眉を顰めた。
薄暗い道路の向こうへ、黒い影が二つ伸びている。
「帰んないの?」
左腕でゴシゴシと瞼を拭い、ナナミは微笑んだ。
「帰る!」
すぐに駆け出してカメオの横に並んだ。
そんなナナミの鼓動が、いつもより少し速まっていたこと──。
彼女がそのことに気がつくのは、まだもう少し後のお話。