「夏祭りには帰っ
てこいよ」
暑中見舞いの絵はがきに書かれた、たった2行の言葉。
はがきの余白は充分にあるのに、どうして中途半端な改行をしているのだろう?
*Q11 おっさんのリサイクルです。
転載元: 「【祭ますか?リサイクル】but when you smile」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/8990
*はがきを書いた人物は右手があまり動かないため、手が疲れてしまった途中からは、左手に持ち替えて書いているから。
毎日仕事で忙しいカメミのマンションのポストに、絵はがきが届いた。
届く手紙のほとんどがダイレクトメールなのに、珍しいとカメミは思った。
それは、祖父からの絵はがきだった。
祖父は、3年前に倒れて、ほとんど右手が動かない。
それでも、リハビリを兼ねて、一生懸命はがきを書いてきたのだろう。
「夏祭りには帰っ
てこいよ」
元学校教師で、私に厳しく漢字の練習をさせた祖父の字とは思えない、ミミズがのたくったような字。
しかし、よく見ると、1行目よりは2行目の方が、線こそ弱々しいものの、字としては整っている。
筆跡が少し異なっているのだ。
たぶん、1行目を書いた時点で、疲れてしまったのだろう。
1行目には「祭」とか「帰」とか、画数の多い漢字も入っているから。
そこで、そこからあとは左手に持ち替えた。
そうなったら、左端から書き始める方が楽だ。
左手で横書きをすると、擦れて汚れてしまう可能性があるからってのもあったのかもしれない。
元教師、っていうことを考えれば、「帰」ではなくて、「帰っ」で改行したのもわかる。
それが原稿用紙のルールだからね。
どんなに手が疲れていても、「っ」だけは前の行の末尾に入れたかったんだろう。
そんなふうに色々考えながら一生懸命字を綴る、優しい祖父の笑顔が心をよぎった。
最近帰ってなくてごめんね。夏祭りには絶対帰るから。
そう心に誓う、孫娘のカメミであった。