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遺された思い

[ウミガメのスープ]

スィワード・ヘイズの父は、癇癪持ちの乱暴者。母はその被害者だった。
母にとって辛い日々だったはずだが、スィワードに向ける眼差しはいつも優しかった。
彼の頭を撫で、抱きしめて、微笑んでくれた。

ある日母はいなくなった。何の前触れもなく突然に。
置いていかれた。いくら時間を費やしても覆らない事実に、スィワードは絶望した。
父は――意外なことに――息子以上に動揺していた。驚き、言葉を失い、やがて顔からは表情が消えた。
その後の父はあっけなかった。何事にも無気力、無関心になり、空気の抜けた風船のように人生を終えた。

何年か後、一人静かに暮らすスィワードの元に、郵便局員の友人が訪ねてきた。
宛所不明の葉書にスィワードと母の名前を見つけ、こっそりと持ってきたのだと言う。
葉書にはこう書かれていた。

「あなたを捨てた罪は、どんなことをしても償いきれません。本当にごめんなさい」

スィワードは、葉書が届かなければよかったと思った。
何故?


出題者:
出題時間: 2018年3月14日 23:08
解決時間: 2018年3月14日 23:24
© 2018 生姜蜂蜜漬け 作者から明示的に許可をもらわない限り、あなたはこの問題を複製・転載・改変することはできません。
転載元: 「遺された思い」 作者: 生姜蜂蜜漬け (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/882
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宛所不明の葉書に書かれている住所は、全く覚えのない場所だった。
それが気になった理由はよくわからない。スィワードはその住所を尋ねることにした。
歩きながら母のことを考えたかったのも知れない。

葉書に書かれていた場所は更地だった。家を取り壊した跡だ。
近隣の住民に声をかけられ、葉書が間違って届いたので、尋ねてみたと答えた。
住民は、
「ああ、スィワードなら一か月くらい前に引っ越したよ」
――??
「……は?」
「わざわざ来てくれたのに残念だったね。スィワード、新しい仕事を見つけたみたいで、それで引っ越したの」
スィワード。ここに住んでいたのはスィワード。
――誰だ?

帰ってきたスィワードを、友人とその父親が迎えた。
「葉書のこと聞いた。隠しておけないと思った」友人の父は言った。
もう一人の「スィワード・ヘイズ」それは父の弟で、かつて母は彼と愛し合っていたらしい。
お互いの両親は父との結婚を望み、母は逆らえず彼を捨てたそうだ。
「スィワード・ヘイズ」は家を出て、その後の彼の行方を知るものは誰もいない。

葉書は彼に宛てたものだった。母は今でも彼を愛しているのだ。

愛する男の名を息子につけて、母は一体何を思っていたのだろう。
あの優しげな眼差しは本当はどこを向いていたのだろう。
結局、母は彼を忘れられなかった。それが自分が捨てられた理由だ。

母に抱く感情を、スィワードは言葉にできなかった。
ただ一つだけ。今の自分は、きっと父と同じ顔をしている。
知らなければよかった。こんなものなければよかった。
スィワードは葉書を引きちぎり、ぐしゃぐしゃに踏みつぶした。


出題者:
参加するには または してください
パトロン:
アシカ人参
と 匿名パトロン 3 名
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Cindy