「出会わなければ、良かったの…」
幸福の絶頂の結婚式の日の朝、新郎に向かってそう告げた花嫁。
なぜ彼女はそんなことを言ったのだろう。
*Q15 セルフリサイクルです。
*一応元ネタがありますが、多分知っている方はほとんどいらっしゃらないと思うので、お気になさらず。
転載元: 「【出会いますか?リサイクル】shiny days when you were mine」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/8573
*昔、占い師に「出会った男を不幸にする」と言われたことのある花嫁。
新郎は、生まれた時からずっと一緒に育って来た親戚の男の子だった。
「出会った」わけではないので、あなたは不幸にならない、という意味で述べた。
俺の両親は俺が生まれるとすぐに交通事故で死んで、俺はぞの後ずっといとこの百合の家で育って来た。
だから、物心ついた時から、百合と一緒だった。
同い年で数日だけ年上。
そんな百合は、いとこだけど、俺にとっては双子で、恋人で、ママで姉で妹で娘を兼ねてる。
「あたし 男の子を育ててるの」
それが百合の口癖だった。
百合はガサツで乱暴な女で、昔は男みたいにしか思えなかった。
高校生になってからは俺と付き合うようになったけれど、それはそれで危なっかしい女で、俺と並行して他にバツ2の歯医者と付き合っていたり、妻を亡くしたばかりの医者と浮気したり、散々やっていたのだが、まあ最後は俺のところに戻ってくるとは思っていた。
ある時、親友のりっちゃんと日良子と占いに行った百合は、帰ってくるなりいつもみたいに大声で叫んだ。
「ちょっとアキミツ!聞いて!あたしどんな男と出会っても相手を不幸にするから、結婚しない方がいいって!!」
俺は笑い転げた。
「お前そんなの今更かよ。占いなんて聞かなくたって当たり前じゃん。」
俺の背中にはドクターマーチンの蹴りが飛んできた。
今日、俺は、白いドレスをきた百合を前にしている。
花嫁になっても百合は相変わらずで、もう1時間で式だというのに、そして長いトレーンのウェディングドレスを着てるにもかかわらず、自慢の長い脚を組んで、りっちゃんと日良子と談笑している。
(式で白のドクターマーチンを履きたいという主張は、俺が必死で説得して断念させた。)
だいたいプロポーズの時だって、ユリのアレンジメントにつけた指輪に気付かず、シャツに花粉がついたことばかり文句を言っていたような、雑な女だ。
新品のラベンダーのカラードレス。
ブルーの花のブーケとヘッドドレス。
先に結婚したりっちゃんから譲ってもらった、ルブタンの白いパンプス。
身長151cmのハンディを跳ね除けてミュージカル俳優になった日良子が、「エリザベート」の主役を射止めた時の、シシィのティアラ。
ガサツだけど、男気があって、友人思いで、まっとうに自分の人生を生きて、真っ直ぐに自分の人生を切り開いていく、誰より綺麗な百合。
「百合、相手を不幸にするから結婚しない方がいいって占い師に言われてたけど、違ったな。」
「違うよ。出会わなければ、良かったの… それだけのことだよ。
だってあたし、アキミツとは『出会って』なんていない。あたしが物心ついた時からそばにいたんだからね。
だいたい、人は誰かを幸せにも不幸にもできないと思うよ。
あたしはアキミツといれば幸せだけどね。アキミツもそうでしょ?」
*元ネタ:西村しのぶ「RUSH」(and inspired by some other sources)