「いえ……すいません」
先輩カメコが何かを手渡そうとするのを、そう言って申し訳なさそうにシン太郎が断ったのは何故だろう。
但し、1年前にシン太郎は父を亡くし、半年前に結婚して一児の父となっている。
転載元: 「そして3年後」 作者: エルナト (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/7870
中学生の時から、カメコはシン太郎の不良仲間の1人だった。
結婚して子どもが生まれた今でも、こうして時々会って他愛のない話をしている。
妻のチョコ美はカメコとも幼馴染で、たまに2人で会うことを特別に許してくれていた。
「タバコ吸う?」
会話が途切れた所で、カメコはそう言ってシン太郎に一本のタバコを差し出した。
中学生の時から喫煙していたシン太郎であったが、最近になってきっぱりとやめた。
ヘビースモーカーであった父を肺癌で亡くし、最愛の子どもが生まれたことが影響している。
「いえ……吸いません」
付き合いが悪くなってすみません。
心の中で申し訳なさそうに謝る。
だが、向こうもすっかり大人になっている。
無理に吸うことを強要したりはしない。
「そういや、子ども生まれたんだったね。女の子だって?可愛がってやんなよ」
渡そうとしたタバコを箱にしまい、そして自らが吸おうとしていたタバコも火を点けず片付けながら彼女は言った。
「はい、ありがとうございます」
家に帰って匂いがするのを気にしてくれたのだろうか。
先輩の気遣いにシン太郎は頭を下げた。
「いいよ、頭上げろよ。ったく、最近どいつもこいつも一緒に吸ってくれなくなってさぁ。私もタバコやめよーかな」
寂しそうに、カメコは言って笑った。
なんだかんだ優しくて頼りになる先輩だとシン太郎は思っている。
今は恋人もいないそうだが、近いうちきっと良い出会いが彼女にも待っているに違いない。
その後、しばらく雑談を続け2人は家路についた。
ふと駅前のアイスクリーム屋さんがチョコ美の大好物であるチョコミントアイスを特売しているのに気付き、買って帰ることにした。
今こうしている間も、彼女は娘の世話に奮闘しているはずだ。
こうやってシン太郎に休みの時間をくれた彼女にも、憩いのひと時を味わって貰わなければ。
「180円になります」
電子マネーで支払いを済ませ、そそくさと車を走らせる。
みんなが幸せになれたら良いな──。
そんなことを思いながら、今日も国道24号線をただ、進んだ。