美魔女の千早。
10月の声を聞き、そろそろ紅葉の季節かと胸を躍らせていたが、油断してしまったようで日焼けしているし、いつの間にできたのかシミがひどい。
「どうしましょう?あなた」
「ああ?そんなもの、上から濃い色塗っときゃどうとでもなんだろ。細かいこと気にすんな。」
と鬱陶しそうに答える夫。
「あら、そうなの?嬉しいわ。さすがあなたね!ありがとう!」
それだけ聞いたら、ずいぶん失礼な物言いに聞こえるが、千早はなぜそんなに嬉しそうだったのだろう?
*要知識要素があります。
*百人一首 その十七【ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは】からのinspireです。
転載元: 「I feel alive when I transform」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/7118
日焼け、シミとは着物(衣服)のことであり、染め直せば問題ないと言ってもらえたので、千早は喜んでいる。
美魔女の千早。和服が大好きだ。
そして、その繋がりで知り合った、夫の業平は、愛想はないが圧倒的なイケメン、しかも腕の良い染職人だ。
千早は、10月になったら紅葉柄の着物を着たい。
(実際には10月に紅葉はまだしていないが、季節を先取りした柄を着る、と言うのが着物のルールなのだ。)
しかし、なんということだろう。
大好きなその着物は日に焼け(光により褪色し)、いつの間にかシミまでできてしまっていた。
去年あまり手入れをせずにしまっていたのがいけなかったのだろうか。
慌てて夫の業平に相談する。
「ああ?そんなもの上からから濃い色塗っときゃどうとでもなんだろ。染めかけ、っていう技術があってな、上から刷毛で線量を塗って色をかけていけば、そのぐらいのシミや日焼けならどうとでもなる。柄の部分には色をかけないようにすることもできるし、柄の部分もちょっと焼けてるようなら、少しコントラストは下がるが、全体に色をかけることもできる。幸い地色が淡色だし、素材の良い織だから綺麗に染まるだろう。こんないい生地と仕立て、そんなことでダメにしたらもったいいない。そんな細かいことを気にするな。」
「あら、そうなの?嬉しいわ。さすがあなたね!ありがとう!
それにしても、あなたは普段は喋らないのに、こういうことになるといくらでも話すのね。」
「ああ、やっぱり素材がいいと違うな。」
「そうね、大事にするわ!」
「…お前と同じだよ。」
最後の台詞は、いそいそと部屋を出て行った千早には、どうやら届かなかったようである。