「鏡よ鏡 鏡さん 世界で一番美しいのは誰?」
「それは白雪姫です」
「いや、そんなはずはない」
「それは違うわ」
そのセリフを聞いて、誰より心中穏やかでなかったのは、白雪姫のほうだったという。
どういうことだろうか。
*百人一首 その九 【はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに】からのinspireです。
転載元: 「Er war Superstar, er war populär 」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/7055
ミュージカル「白雪姫」主役に抜擢された小野姫花。
チャーミングなルックスで人気急上昇のアイドルだ。
だがしかし。
お妃役は、40代半ばを超えた今でも現役当時と同じ、ともすればそれ以上とも言われる、「抜群の美貌とスタイル」「圧倒的な歌唱力」「圧巻の演技力」を誇る、元水平歌劇団トップスター、小町麗妃である。
(いや、姫花ちゃんも可愛いけど、麗妃さんと並ぶとただの子供だよね)
(しょうみ、小町麗妃が実質上の主役やろ)
(麗妃さんの存在感すごい)
(演出家がお妃様の台詞と出番増やしたっていうじゃん?すごい惚れ込みよう)
プレスリリース後、芸能記者は口々にそう呟いたという。
そして、舞台当日。白雪姫に扮した姫花は、舞台袖でずっとモニターを見つめていた。
「鏡よ鏡 鏡さん 世界で一番美しいのは誰?」
「それは白雪姫です」
そのセリフを聞いて、誰よりも心穏やかでなかった姫花。
姫花の心には、客席の観客の心の声が聞こえる気がした。
(いや、そんなはずはない)
(それは違うわ)
負けていられるか。この舞台の主役は私だ。
私はかわいい。 私はかわいい。 誰がなんと言おうと私は絶対にかわいいから大丈夫。
アイドル芝居だなんて言わせるもんか。
心中の乱れを治めんばかりに、姫花はぎゅっと拳を握りしめた。