雨が降ると彼女は、ここに現れる。
会えないこともあるのだが、これまで何回も会っている。
だから、私は、彼女が正確に何を求めているかは、わかっている。
でも、私は知らないふりをする。
それは彼女のためだ。どういうことだろうか。
*百人一首 その一 【あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ】 からのinspireです。
転載元: 「he pretends he can't hear her」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/7021
彼女は、雨が降ると駅からタクシーを拾う。
結構おしゃれな人なので、服や靴や鞄を濡らすのが嫌なのかもしれない。
そんなに乗降客の多くない地方の駅。
彼女が私のタクシーに乗る確率は、割と高い。
彼女のマンションは、秋田2丁目の信号を少し行った先を右に入ったところだ。
何度も乗せているから、覚えている。
ただ。
彼女の指示を受ける前に、勝手に「秋田2丁目でしたね?」とか、「一つ目の角を右ですね?」と言ってしまったら、彼女は自分のことを知られていると不安に思うかもしれない。
この辺りの住人の多くは、家族に駅まで迎えに来てもらうが、そうでなくタクシーを利用しているということから、彼女は一人暮らしの可能性も高い。
そうだとすると、尚更、私に住所を知られているとは思いたくないだろう。
だから、私は、知らないふりでいつもと同じ会話を繰り返す。
「秋田2丁目の信号のそばまでお願いします。」
「はい。秋田2丁目と言うと、ガソリンスタンドの近くでいいですか?」