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【旅立ちますか?リサイクル】To be near you, to be free

[ウミガメのスープ]

女は二度と帰らない旅に出た。
そこに男がやって来て、女の故郷の電車の話をした。
女は泣いた。
男の言葉をきっかけに故郷に戻った女は、その電車を見た。
しかし、女がその電車に乗ることはなかった。
そして、自分は二度と帰ることがないのだと、ふたたび涙を流した。
どういうことだろうか。
*Q8 セルフリサイクルです。
*元ネタはありますが、結末は変えてあります。


出題者:
出題時間: 2021年3月14日 23:10
解決時間: 2021年3月15日 0:25
© 2021 gattabianca 作者から明示的に許可をもらわない限り、あなたはこの問題を複製・転載・改変することはできません。
転載元: 「【旅立ちますか?リサイクル】To be near you, to be free」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/5659
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私はいろいろあった故郷を捨て、二度と帰らないつもりで、逃げるように海外に向かった。行った先の街で、同じ日本人のカメコと知り合った。他に日本人もいないので、意気投合して仲良くなり、私はカメコの住むコンドミニアムに転がりこんだ。事情は知らないが、カメコは金に困らない生活をしていたので、私も気楽に過ごしていた。だが、知り合って2年ほどが過ぎ、だんだんカメコは私を召使のように扱うようになった。ある日、とうとう我慢できなくなり、口論の末、私はカメコを階段から突き落としてしまった。私はカメコの遺体を埋め、この街でカメコとして生活することにした。幸い年が近く背格好も似ていたので、ちょっと整形するだけでかなり似せることができた。そもそもこの国の人には日本人の顔の区別などつかないだろうし、もともとほとんど地元の人と接することもなかったから、特に怪しまれることもなかった。ウミコとしての暮らしにはもう二度と帰ることができなくなっていたが、最初からそのつもりで出た故郷、覚悟はできていた。

あの男が来るまでは。

あの男は、カメコの幼馴染みだが、もう30年以上会っていないと話していた。私は、2年間一緒に生活する中で、カメコのことはすっかりわかっていたから、カメコとしてあの男の話に合わせることができた。

唯一、あの私の故郷の電車のことを除いては。

これまで、たまたま故郷の写真や動画を見ることがあっても、それはカメコとして生きることを選んだ私にとってはまるでフィクションのようで、どうせ帰れないのだからと特に郷愁に駆られることもなかった。忘れたはずの故郷だった。
でも、不意打ちのように第三者に語られると、話は全く違っていた。これまでほとんど他人と話すことがなかったからかもしれない。あの男が生き生きと話す朝のラッシュ時の風景、乗り換え駅の様子、新しくなった駅舎、そして見慣れたマルーン色の電車の描写。私の目からは涙がこぼれ落ちた。カメコは別の街の出身だった。もう私は自分がウミコだと認めざるを得なかった。

私は日本に送り返され、裁判を受けることになった。無期懲役の判決を受けた私は、偶然にも、私は故郷の近くの刑務所に収容されることとなった。
「あ…」
護送車から見えたのはあの懐かしいマルーン色の電車だった。この電車がなかったら、あの男がこの電車の話をすることがなかったら、私はずっとあの遠い異国の街でカメコとして「幸せに」暮らしていたのだろうか。あの街で二度とこの電車に乗れないと思っても、特に辛くは思わなかったのに。こんなに近くにいるのに、私はもう二度とこの電車に乗ることはできないのだ。そう思ったら、何もかも自分のせいだとはわかっていても、涙が止まらなかった。

*アガサ・クリスティの短編「シーラーズの家」をバッドエンド?にしたものです。


出題者:
参加するには または してください
パトロン:
アシカ人参
と 匿名パトロン 3 名
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Cindy