「俺、酒辞める。絶対辞める。金輪際辞める。」
今日も今日とて無様に酔い潰れながら宣うカメオを前に、カメコは「あ、はい、そうですかー。」と冷ややかな目で見ていた。
これまでカメオは酒のせいで痛い目を見ては冒頭の発言をして、その次の日には酒に手を出すのだ。上司にケンカを売ってクビになった日、寝タバコが原因で家が火事になりかけた日、長女が生まれたその日に泥酔しててろくに立ち会えなかった日。いつだってそうだ。
「酒飲みって人種は、どうしてこうなんだろう。あたし、旦那にする人を間違えた。絶対間違えた。」そんな後悔がカメコの日常だった。
ところがある朝、カメオに「俺、酒辞めるわ。」と言われたカメコは、「あ、今度こそは本当に酒を辞めるんだろうな。」と信じたという。
一体何故だろうか?
ZENOさんの出題①のオマージュです。
転載元: 「【酒ますか?オマージュ】禁酒宣言」 作者: バサミ (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/5490
カメコは先週、心筋梗塞でこの世を去った。私が酔いつぶれて寝ている間に。長女も丁度修学旅行に行っていて自宅には、私とカメコ2人しかいなかった。
もし、私があの時、お酒を飲んでいなかったらカメコは助かったかもしれない。もし、もっと前にお酒をやめていれば、こんな未来は無かったかもしれない。
カメコはいつも言っていた。「あんた、もうそろそろお酒止めないと、ひどい目に合うよ」と。本当にその通りだ。
娘も「お父さんがお母さんを殺したんだ!」と言って家から出ていってしまった。もう、家にはカメコの仏壇と私しかいない。ひとりぼっちだ。
カメオ「カメコ、聞いてるか。娘は家から出ていってしまったけど、おばあちゃんの家で元気に暮らしているそうだ。また顔見れるのはいつになるか分からないがな。……もし神様がいるなら、俺が代わりに死んで、お前を生き返らしてやりたい。ただそんな事あるわけないよな…。お前の言うことを聞いて、酒をやめていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。何度も何度も迷惑をかけてしまった。何度も何度も辛い思いをさせてしまった。だが今度だけは信用してくれ」
ー「俺、酒辞めるわ。」