カメコ・カメオの夫婦は、何回かの転勤を経て、10年ぶりに以前住んでいた街に戻ってきた。何処に住もうか部屋を探していたところ、二人が新婚当初住んでいた場所に、新しいマンションが建っているのを発見した。そこは二人の思い出の場所だったし、日当たりがよく、駅に近く、静かで治安も良く、買い物にも通勤にも便利な、申し分のない場所だった。新しいマンションは以前建っていたマンションより部屋数も広く、家賃はその分高かったが、10年経って給料も増えた二人には十分支払えるものであった。
「…でもここだけはないね。」
「そうだね。残念だけど。」
と言って二人は断念した。
何故だろうか。
*少し要知識というか、経験によって左右される部分があるかもしれません。御了承ください。
転載元: 「'Cause you can't buy a house in heaven」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/5147
かつて二人はその街の小さなマンションに暮らしていた。新築ではないが、綺麗で居心地がよく、二人は幸せな新婚生活を送っていた。そんなある日、二人の住む街を地震が襲った。地震の被害というものは、地層や地質など、ほんのちょっとした条件で変わってくるので、数十メートルの違いでその被害には大きく差が出るものだ。その地域全体では震度5弱であったが、たまたま二人のマンションは揺れの大きい場所に建っていた。二人のマンションとその周囲だけが、地域でも際立って被害を受けた。
幸いにして外出中に起きた地震だったので怪我はなかったものの、仕事から帰って部屋に入った二人が目にした光景は悲惨なものだった。新生活のために買い揃えた家具も食器も全てだめになってしまった。とりあえずマンションが傾いたりはしていなかったが、その壁には大きな亀裂がX字状に走っていた。管理会社からは、取り壊しが決まったため退去するようにと指示があった。ちょうど転勤も決まっていたことから、二人は退去費用をもらって引っ越すことにした。思い出のマンションは、程なくして取り壊されたと聞いた。
それから10年後、二人はまた同じ街に戻ってきた。取り壊されたマンションの跡地には、新築のマンションが建っている。条件にはぴったり合った申し分のない物件だったが、二人はどうしてもあの日の光景が忘れられなかった。地盤は整備したのかもしれない。耐震技術も進んでいるのだろう。でも、この場所が周りよりも揺れに弱いことに変わりはない。そして、この国に住む限り、いつ何処で地震が起きるかは分からないのだ。そう思うと、とても同じ場所に住む気は起きなかった。仕方なく二人は、他の物件を探すのだった。