長い旅を経て日本にやってきたポルトガルの神父。
ある集まりから辞去して宿へ帰る道。来日以来ずっと、通訳をはじめとする世話をしてくれているマツナガに言う。
「先ほどあそこにいたのは、この国の有力領主ご夫妻とその重臣ですね?」
「そのとおりです」
「それはいいのですが、もう一人いたあの人、あれはいったいどういう人ですか?」
「……神父。あそこには3人しかいませんでした」
そんなはずはない、自分はもう一人あの場にいるのを見た。神父はそう言うが、マツナガは首を横に振るばかり。
いったいどういうことだろう。
転載元: 「戦国の流儀」 作者: GoTo_Label (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/5135
「いや、黒い奇妙な服を着た人がいたでしょう」
神父のその言葉を聞いて、マツナガは笑いだす。
「ああ、そのことですか。歌舞伎にはああやって、劇の進行を補助する役目の人がいるんですよ。黒衣(くろご)といいます」
「なるほど、そうでしたか」
歌舞伎見物帰りの二人は笑いあって、ホテルへ帰っていった。