ウミドリのスープ

『エトピリカ』という海鳥を知らなかった男は、恥をかきたくなかったので、別種の鳥と知りつつ『ペンギン』を見た。
一体何故？

老眼のため、『エトピリカ』の『ピ』が濁点なのか半濁点なのかよくわからなかったので、『ペンギン』を見て双方の違いを確認した。


「おじいちゃん！いっしょにとりさんのごほんよもう！」

カワイイ孫にせがまれて、図書館で借りた鳥類図鑑を開いた男だが、最近ちょっと老眼が進んで細かい字が読みにくい。
でも、イラストでだいたい名前はわかるし、どうしてもわからない時だけ字を読めばいいから楽勝……と思ったら、見知らぬ鳥が出てきた。

何だこれは？
　ええと……『エトピリカ』？
　いや『ピ』じゃなくて『ビ』？
　どっちだ！？

男には『ピ』の半濁点がぼやけたシミにしか見えない。
半濁点なのか、濁点の2つの点が1つに見えているのか、どうしてもわからないのだ。

「おじいちゃん、これは？」
「ええと……これは……」

他の家族も近くにいるのに濁点と半濁点を間違えるのは恥ずかしい。
男は素早く目を走らせ、『ペンギン』という文字列を見つけると、濁点と半濁点の見え方の違いを確認した。

濁点はちょっと横幅が広いんだな。ならば……

「これは『エトピリカ』だよ。」

男は何とか面目を保った。