小さな廃旅館の廊下で、その男は踊っていた。
両手を頭上に振りかざし、激しく首を振りながら。
共に肝試しに来た友人たちの怯えた視線をその身に受け、狂ったように踊っていた。
懐中電灯に照らされた男の顔は苦悶に歪んでいるようだった。
歯は食いしばられ、瞳はかたく閉ざされている。
事実、男は最悪の気分だったが、しかしこれが呪いなどではないと知っていた。
一体何が起こったと言うのだろう。
転載元: 「闇夜に踊る男」 作者: ゐずゐ (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/5047
あまり知られていないが、大学の寮の近くにいわくつきの廃旅館がある。
その夜、無類のオカルト好きであるアシダに連れられ、エトリ、ウミノ、カメイたちは肝試しに来ていた。
荒れ果てて開いたままの玄関口に立つと、さすがに異様な雰囲気がある。
思わず尻ごみするエトリたちを意にも介さず、アシダは先頭を切って上がり込み、ずんずん奥へと進んでいく。
「ま、待てよ」
三人はアシダを見失わないよう進むのが精一杯だった。
「ぎゃっ」
不意に前方で叫び声がした。
先頭をゆく男に何かあったのではないか、そんな恐怖と不安に震えながら三人が見ると……
アシダが何か踊っている。
両手を頭上に振りかざし、激しく首を振りながら。歯を食いしばり、瞳を閉じ、苦しそうに踊っている。
「お、おい。大丈夫か……?」
おそるおそるカメイが呼びかける。エトリとウミノは今にも泣き出しそうだ。
「ここヤバい!」
「ヤ、ヤバいって何が!」
「クモの巣!!」
「……え?」
「ここほんとヤバい!クモの巣ほんとヤバい」