忌まわしい強風が窓を震わせる。この私がここまで打ちのめされるなんて、しばらく前の私しか知らない人には想像もつかないだろう。
まるで世界が自分のものであるかのように満たされていた日々が嘘のよう、今は道の掃除をするのがやっとだ。あの日々が砂上の楼閣だなんて、頭では分かっていても、辛くなる。
新しい勝者の凱旋を、子どもたちが高らかに叫んでいるうちはまだ良かった。でも、新しい王者の即位を大人たちが祝い始めてから、一気に転落が始まった。
外の通りを薄気味の悪い糸の切れたマリオネットみたいな奴らが通るのが見えた。もうだめだ。
過去に何度も同じような目に遭ってきた。その度にもうだめだ、と思いながら、なんとかやり過ごしてきた。でも、今回は、本当に無理かもしれないと絶望感に襲われる。
遠い異国の地で同じように闘う仲間たちは、もっと辛い思いをしているのだろう。そう自分に言い聞かせても、今の私には、何の救いにもならない。
街に鐘の音が溢れ始めた。賑やかな歌声も聞こえる。もうおしまいだ。天国に行ける者にとっては誇らしい音なのだろう。でも、今の私には、その音が断頭台の銀の盆が立てる死の宣告のようにしか聞こえなかった。私の名前が天国に呼ばれるとは到底思えない。
…しばらくすると、鐘の音は聞こえなくなった。そして、遠くからまた、鐘の音が響いてきた。もしや私は助かったのだろうか?
不思議なものだ。何一つ客観的な状況は変わっていないのに。 私は安堵の息を吐くとともに、自分の変わらなさを嘆いた。
[問]この文章の状況を説明してください。
*ある要知識な状態を前提に書いています。ちょっとマニアックな知識ですが、知らなくても状況説明はできます。
*大好きなCOLDPLAYの”Viva la vida”からインスピレーションを受けています。歌詞の要素を散りばめて作りました。有名な曲ですが、一度聴いてみてください!
転載元: 「Hear Jerusalem bells are ringing」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/4979
[解答]夏から年明けにかけての季節の移り変わり
[解説]
また、この季節が来てしまった。
SAD。季節性気分障害。
冬季鬱病、なんていう人もいる。
いつからこの症状を患っているのかは、思い出せない。
でも、木枯らしが吹くころの私は、春夏の社交的な私とはほぼ別人。外に出るのも億劫だ。でもこの風で落ち葉がひどく散っている。前の道ぐらい掃き掃除しないと。
この症状は、日照時間の減少が、原因らしい。
でも、不思議なことに、光と関係なくても、「その季節を連想させるもの」だけで気分が変動するようになってきた。条件付け、ってやつだろうか。
夏の高校野球全国大会の決勝戦、そのあたりからちょっとずつあやしくなる。プロ野球のペナントレース、それはもうだめだ。
ハロウィンの頃には、カーテンを開けるのも嫌になる。あんな気持ちの悪い人形みたいな仮装、見たくもない。
毎年同じことの繰り返しなんだから、慣れたって良いはずなのに、むしろ年々悪化している気がする。今年はもう死ぬかもしれない、って毎年思う。
北欧とか、夏と冬の日照時間差の激しい土地では、もっと患者数も多く、深刻な問題だと聞く。日本にいる私は恵まれている方なのかもしれない。そう自分に言い聞かせたって、楽にはならないけど。
そうこうしているうちに、一番の山がやってきた。クリスマスだ。元々クリスマスがこの時期になったのは冬至祭と一緒になったからだという。冬至。私が1年で一番追い詰められる季節。街には鐘の音、クリスマスソング、浮つく人たち。私とは何もかも遠い。私は神の国になど入れない。布団をかぶり、ただ時が過ぎるのを待つ。
この国では、12月25日を境に景色が一変する。鐘の音もキャロルも消え去り、急に年越しの準備を始めるのだ。
ふと気づくと、除夜の鐘が聞こえてきた。冬至を過ぎること10日。実際はほとんど日が長くなってなどいない。でも、どうしてだろう。毎年大晦日を迎えると、少し、先が見えるような気がする。最悪の時期は脱した、という安堵だろうか。
結局この繰り返しだ。どんなに追い詰められても、心のどこかでいつかは春が来て、明るい自分が戻ってくると分かってるのかもしれない。でも、逆に言えばこのサイクルを抜けられないということか。
そしてまた一つ、大きな溜息を吐いた。
*高緯度の英国などでは、国民の8%ほどの罹患率だと言われています。日本でも、100万人ほどの患者がいるというデータもあるようです。
*光療法や薬物治療など、効果的な治療法もあるようです。辛い時は無理せずに専門家に相談しましょう。