「あの黒ひげを一発で仕留めてやる」
そう言った男はただの一般人である黒ひげに10発かけても仕留めることはできなかった。
さぞかし皆の笑われものになると思いきや、皆から英雄扱いされている。どういう事だろう。
No.1 ノーキンさんの問題文をお借りしました。
転載元: 「【危機ますか?リサイクル】黒ひげ危機十発」 作者: ハコブネ (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/4844
【簡易解説】
自殺で死にきれずに苦しむ父親を見兼ねて殺害してしまい、
黒ひげは「肉親殺し」であるとして死刑になった。
死刑執行人の男が、黒ひげに対する発砲をわざと外すことで、
現行の法律に対する抗議を行った。
男は、法律改正によって黒ひげを救ったことで、英雄として扱われた。
【簡易じゃない解説】
病に苦しみ、首を切って自害しようとしたものの、
ナイフを中途半端に刺したせいで死にきれずに苦しんでいる父親を見た黒ひげ。
黒ひげは、父親の懇願に押されてやむを得ずにとどめを刺した。
この国の法律では、肉親殺しは弁明の余地も与えられることなく死刑となる。
民衆は、黒ひげが父親を献身的に看病していたことをよく知っており、
形の減免を請願したのだが、司法長は取り合わずに死刑を宣告した。
そして公開処刑の日。この国の処刑方法は銃殺である。
唯一の執行人である男が銃を構え、いつものように「あの黒ひげを一発で仕留めてやる」と笑いながら発砲した。
しかし、その銃弾は明後日の方向に飛んで行く。
「おや、今日は調子が悪いようだ。銃には一発しか弾が込められていないから、執行は明日に延期してくれ」
と言って立ち去る男。男の腕は確かなものであり、動いていない標的を仕留め損ねるなどあり得ない。
民衆は唖然としながら男の後ろ姿を見送った。
次の日も、そのまた次の日も死刑は執行されようとしたが、男の銃弾は当たらない。
10日目になって、しびれを切らした司法長が男を問い詰めた。
「貴様、いったいどういうつもりなのだ!?」
男は待ってましたとばかりに返答した。
「司法長よ、確かに実の親を殺すことは許されてはならないことかもしれない。
しかし、あなたは黒ひげの事情を汲んだのか?民衆の声を聴いているか?
黒ひげは何も父親が憎くて殺したのではない。父親を苦しみから救いたくて殺したのだ。
そんな黒ひげを『法律がそうなっているから』という理由で殺すのは果たして正義なのか?
『そのような法律が間違っている』のではないか?」
司法長にとって、男の発言は衝撃的なものだった。
法律は絶対のものであるというのがこの国の常識であり、
「法律が間違っている」などという考えには思いもよらなかったから。
司法長は、「肉親殺しは有無を言わさず死刑」という法律の妥当性を検討することにした。
そして数ヶ月後。
黒ひげは、いつものように牛乳を売り歩いていた。
彼の死刑は免除されたのである。
父親を殺したことに悩む日も多いものの、
周りの人に支えられ、笑顔を見せる日も増えてきている。
あの後、司法長は法律の改正を国王に上申した。
国王も、「法律は絶対」という先入観を打ち砕く司法長の発言に辟易したが、
司法長の丁寧な説得により、「肉親殺しは有無を言わさず死刑」の法律を削除し、
肉親殺しの場合でも正当な裁判を受けられるようにした。
その裁判の結果、黒ひげの情状酌量が認められたのである。
「法律を変える」という前例なき挑戦を行なった司法長、
そしてその切っ掛けを作った執行人の男は、
国の英雄として後世に語り継がれていくことだろう。
参考:
森鴎外『高瀬舟』
最大判昭48.4.4(尊属殺重罰規定違憲判決)
※ショッキングな事件なので検索注意です。