チョウ目アゲハチョウ科に分類されるチョウの1種。
2012年に発見された新しい種で、幼虫から羽化した後、成虫の状態ですぐに長い休眠につき、約8〜12年休眠したままで過ごす。
そして休眠明けは何事もなかったようにその美しい羽を広げて空へと羽ばたいていく。
その長期間の休眠の理由は未だ解明されておらず、別名スリーピングビューティーバタフライとも呼ばれている。
さてこの蝶の和名の由来はなにか?
※らてらてで出題済み問題。知っている方は早く寝なさい!もう!
転載元: 「眠れる美女は何処から来たのか?」 作者: ダニー (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/4745
【要約解説】
新種であるこの蝶を発見した学者が「長期間にわたり原因不明で昏睡状態に陥っている想い人の山野恵がこの蝶のように目覚めること」を願って命名した。
昆虫学者の田中には幼い頃から大好きな女性がいた。
近所に住む8歳年上のお姉さん。
早くに両親を亡くし、祖父母に育てられていた田中にいつも優しく接してくれた人。
女性としては珍しく昆虫が好きな人で、よく田中を虫捕りに連れて行ったのだが、これが田中の昆虫学者を目指すきっかけだった。
田中は幼いながらも彼女に淡い恋心を実らせていた。
・・・
月日は流れ…
それは田中が高校3年生の時。
彼女の結婚が決まった。
彼氏がいるということは聞いていたのだが、実際にその男を見た訳ではないし、どこか現実味がない事として受け止めていた。
しかし結婚という言葉を彼女から聞いて、田中は自分でも驚くほどショックを受けた。
絞り出すように「おめでとう」と彼女に告げた後の記憶が曖昧だ。
気づけば田中は彼女と昔よく虫捕りに行っていた山の中腹で、木に寄りかかってぼーっとしていた。
もうすぐ日が暮れる。
しかし田中の足は動かない。動きたくない。
結局田中はそこで一晩を明かしたのだった。
翌朝、気怠い身体を起こし帰宅した田中に祖母が慌てて駆け寄ってきた。
「あ、あ、あんた、1日どこにいたの!?」
「・・・ごめん、ちょっと友達のと…」
「めぐちゃんが!めぐちゃんが…交通事故に!」
「・・・え?」
彼女は家から1kmほど離れた場所で、農作業用の軽トラックに撥ねられた。
なぜそんなところに、と皆が不思議に思った。
彼女が轢かれた場所はコンビニや家屋がある場所ではない。
田んぼに囲まれ街灯も一切ない、山へ向かう為だけの真っ暗な道だったからだ。
田中は一刻も早く彼女が運ばれた病院に行かなくてはと思いながらも、なかなか病院に向かうことができなかった。
田中は怖かったのだ。
彼女を囲む全ての人に、彼女の婚約者に、そして彼女自身に。
自分が責められると思うと田中の足は凍りつき、その場から動けなくなってしまった。
そしてようやく病院に行くことができたのは事故から3日後。
病院内は肌寒いくらい温度だったが田中は脂汗を浮かべながら彼女の病室に入った。
そこには知らない男が彼女のベッドに頭を載せて突っ伏していた。
田中が近づくと男は体を起こし、その憔悴しきった顔で田中を見た。
「君が… 田中君、だね?」
「・・・」
「恵からよく話は聞いているよ。さあ恵の側に来てやってくれ」
「・・・」
「恵、田中君が来てくれたぞ。ちょっと起きてみないか?」
「・・・」
「・・・昏睡状態らしい。手術は無事に終わって一命を取り止めることはできたんだが、意識は回復しなかった。原因は、わからないんだってさ」
「・・・」
「おい!恵!起きてくれよ!田中君、来てくれたぞ!恵、め、ぐみ、起きてくれよ…」
「・・・」
「・・・」
「・・・んなさい」
「・・・え?」
「ごめんなさい」
「ど、どうしたんだ?田中君」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
田中はその場で泣き崩れた。
一番泣き顔を見せたくない相手の前で。
一番心配させたくない人の前で。
田中は声が枯れるまで泣き続けた。
・・・
それから10年の歳月が経った。
田中が准教授として勤める大学の研究室に歓喜の声が上がっている。
「やはり、これは新種、だな」
様々な文献を調べて、目の前にいるこのアゲハ蝶は新種で間違いないと結論付けた田中。
「これから忙しくなるな」
田中はこのアゲハ蝶を新種として学会誌に発表する為に論文の作成に取り掛かった。
・・・
四国の離島で発見したこのアゲハ蝶は非常に興味深い特徴を持っていた。
幼虫から羽化した後、成虫の状態ですぐに長い休眠につき、約8〜12年休眠したままで過ごすのだ。
夏眠や冬眠など一時的な休眠をとる蝶はいるものの、このような長期間休眠する種は蝶以外でも類をみない。
田中はこのアゲハ蝶と、ある女性を重ね合わせていた。
あれから10年もの間、眠り続けている女性。
月に一度は電車で1時間揺られて彼女に会いに行っている。
彼女の婚約者だった男は3年前に別の女性と結婚してしまったが、田中はたった10年では断ち切れない想いをずっと持ち続けていた。
「三つ子の魂百まで…とはちょっと違うか」
田中は電車の中で苦笑しながら独りごちた。
そして田中は今も彼女のもとへ向かっている。
彼女に新種発表が成功したことを伝える為に。
病室に行く途中に花屋へ立ち寄り、花束を作ってもらった。
それを胸に抱えて彼女の病室を訪ねる。
303号室 山野恵
10年前から変わらない部屋。
10年前と変わらない顔で眠る彼女。
田中は彼女のベッドの側に座り、こっそりとポケットからあのアゲハ蝶を取り出した。
このアゲハ蝶は樹のムロや隙間に隠れ休眠に入る。
そして一度休眠に入ると刺激を与えても起きることはない。
田中は休眠中のアゲハ蝶をお土産にこっそりと持ってきていたのだった。
「この前話したアゲハ蝶、無事に新種発表が終わったよ」
「学名はPapilio yamanomegumii 2012、和名はヤマノメグミアゲハ」
「ごめんね、勝手に名前使っちゃった」
「このアゲハ蝶は遅くても12年経てば長い眠りから目覚める。そう必ず目覚めるんだ。今日持ってきたのは休眠に入って何年経ったかわからないから、いつ目覚めるかはわからないけど」
「この蝶がなんでこんなに長い眠りにつくかはまだわかってないんだ。でも絶対に、絶対にその理由を見つけてみせる。僕の学者人生全てをかけてね!」
そして田中は慣れた手つきで花瓶に花を入れ、水を注いだ。
そしてこっそりと花の中に忍び込ませた。ヤマノメグミアゲハを。
・・・
田中の去った静かな病室。
時計の秒針の音だけが部屋に響いている。
その音に呼応するように小刻みに動く小さな影。
ヤマノメグミアゲハが10年の眠りから目覚め、その美しい羽を広げた。
そして月明かりに照らされながら部屋の中をヒラヒラと舞うのだった。
「・・・綺麗」