子や孫や兄弟に囲まれながら、元気そうに談笑しているカメゾウ。
一家団欒のひとときを過ごしている最中、大学生である孫のシン太郎だけは、傍にいるカメゾウが無理をしていることに気付いていた。
何故だろう。
※この問題は企画「年越シンディ<2019-2020>」の問題です。
皆様の出題も心からお待ちしております!
転載元: 「【HNYC】カメゾウじいさんと孫」 作者: エルナト (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/3952
***要約***
若くしてカメゾウが死んだ日、未来から彼に会いに来た孫のシン太郎は彼が元気に振る舞っているのを見て「元気なはずがないのに」と考えたから。
シン太郎は、祖父であるカメゾウにずっと会いたいと思っていた。
「とても立派な人だった」
「死ぬ直前まで笑顔で元気に振る舞い、誰よりも家族のことを考えてくれていた」
カメゾウじいさんを知る人はそのように言い、誰一人として悪く言う者はいなかった。
シン太郎が生まれるよりもずっと前に亡くなったため、一度も会ったことはない。
いったい、どんな人なのだろう。
会ってみたい。
そう願い続けた矢先、ついにその夢が叶う日がやって来た。
タイムマシンが完成し、一般市民にも使えるようになったのだ。
向かうのは、彼が亡くなった日。
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辿り着いたのは、病院の一室。
四人部屋の奥にカーテンで仕切られた中に、カメゾウはいた。
カーテンの中、ベッドのそばにはシン太郎の父であるカメオ、叔父や大叔母らがいた。
父のカメオは、どうやらまだ小学生らしく、幼い声でカメゾウと戯れていた。
「お父さん!いつかえってくる?」
「んー、もう少ししたら帰れるかな?」
「えー、もう今日帰ろうよ!」
「ははは、帰れたら帰りたいけど、もう少しだけ我慢してくれ、カメオ」
カーテン越しに、シン太郎はカメゾウの声を黙って聞いている。
平気そうに、カメゾウは笑う。
必ず、元気になって帰るのだと。
家に帰るのだと。
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だが、シン太郎は知っている。
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蝕む病に今にも朽ち果てそうなその身を、必死に奮わせて笑顔を見せている。
本当は、今にも倒れそうなのに。
本当は、今すぐにでも横になりたいのに。
笑い声が響き渡る中、ただ一人、静かに息を凝らし、涙を流す。
そのすぐ後ろ側で、ひっそりと乱れる呼吸を整えようとする息遣いが聞こえている。
誰も気付かない。
彼の笑顔が、偽りの笑顔だと気付かない。
気付いているのは──。
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突然、ドサリと音がした。
体に装着されていた心電図モニターが、カララララとけたたましいアラーム音を響かせる。
悲鳴、助けを呼ぶ声、駆け付ける足音。
患者の急変を知らせる院内放送。
即座に大勢の医療従事者が集まり、あちらこちらで指示を送る声が飛ぶ。
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呼吸は、戻らない。
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騒然とする物音は、何も耳に入らない。
ただ自分の頬をポタポタと涙がこぼれ落ちていく感覚だけが、残されている。