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【蜻蛉ますか?リサイクル】トンボの道標

[ウミガメのスープ]

「おーい、トンボ持って来い、トンボ!」

中学1年生の夏。
野球部の僕は、監督にそう言われたから必死で野山を駆け回り、
ようやく捕まえたシオカラトンボを持って行ったんだ。
それが、あんな悲劇を生んでしまうなんて・・・!

いったい、何が起こったのだろう?

※ZENOさんのリサイクルです。


出題者:
出題時間: 2019年9月15日 0:05
解決時間: 2019年9月15日 1:26
© 2019 SM 作者から明示的に許可をもらわない限り、あなたはこの問題を複製・転載・改変することはできません。
転載元: 「【蜻蛉ますか?リサイクル】トンボの道標」 作者: SM (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/3569
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【簡易解説】
夏休みの自由研究が終わっておらず、部活に出れないと言った僕に、トンボを持ってきたら手伝ってやると監督が言った。
僕はトンボを持ってきて、それを観察し、監督に手伝ってもらい、無事自由研究が終わったのだが、
「一人の生徒に肩入れしすぎ」と別の親に訴えられ、監督は学校を去ることになった

【物語】

僕は出来損ないだ。運動はできないし、勉強はもっとできない。それでも頑張ろうと必死に勉強したんだ。

中学受験を失敗した日、全てが変わってしまった。

お父さんは毎日お酒を飲んで、僕に暴言を吐いてくる。お母さんはそれを見かねて家を出て行ってしまった。

家にあまり帰りたくない僕は、中学は野球部に入って日が沈むまで練習をした。

全然うまくならなかったし、他の部員には嫌われていたけど、監督だけは優しくしてくれた。

頭の悪い僕だけど、部活も、勉強も頑張って、いい学校に入れれば、家族も元に戻るかもしれない。

夏が来た。相変わらずお父さんは家でお酒を飲んでいる。僕はなるべく外で宿題をするようにした。

しかし、自由研究だけは中々手が付かなかった。相談する人もいないし、道具を調達することもできない。

夏休みも1週間を切った、ある野球部の練習日。僕は監督に言った。

「先生、僕夏休みの宿題が終わってなくて・・・野球部の練習に参加できないです」

「ちゃんと宿題やらなかったのか、まだたくさん残ってるのか」

「あの、自由研究が・・・まだ全く手がついてなくて・・・」

僕は監督に怒鳴られると思ったが、そんなことはなく、頑張れよと言われた。それだけだった。

家にも戻りたくない僕は、学校に残って、自由研究の白紙とにらめっこした。しかし何も思いつかない。

そのうち日が暮れて来た。野球部の練習もそろそろ終わるだろう。僕は学校から家に帰ろうと校門を出た。

その時、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた

「おーい、トンボ持って来い、トンボ!」

えっ。僕は意味が上手く理解できず、その場に固まってしまった。

「自由研究終わってないんだろー、明日、トンボ捕まえて持ってきたら手伝ってやるぞー!」

話を聞くと、監督は学校の先生になる前は、トンボの研究をしていたくらいに、トンボ博士だったのだ。

次の日、僕は監督から聞いた方法と道具を使ってトンボを捕まえに行った。

そしてやっと捕まえたシオカラトンボをもって学校へと向かった。

その日も部活があったのだが、監督は僕につきっきりで色んなことを教えてくれた。

持ってきてくれた資料を読んだり、観察したり、疑問に思ったことを監督に質問したりした。

僕はやっとのことで自由研究を終わらすことができた。監督もほめてくれた。

しかし、悲劇は起きた。

野球部の部員が、監督が僕の宿題を手伝っていたことを、親に言ったのだ。

その親は偉い人と繋がっているらしく、教育委員会に色々訴えかけたらしい。

「部活の監督のくせに、私の子供や他の野球部員の事を全く育てる気がなく……」
「一人の生徒に肩入れして、えこひいきしてる、指導者の風上にも置けない……」
「私の子供も、そんな監督に毎日嫌気がさしているらしく、他の生徒の親も……」

その結果、監督は、学校を去ることになった。

僕のせいでこんなことが起きたのに、監督は最後まで優しく、僕を気にかけてくれた。

もしかしたら僕が考えるのがあまり得意ではなく、家族と上手くいっていないのも知っていたのかもしれない。

僕は泣いた。自分を呪った。何もできない自分が悔しかった。

もしかしたら指導者としては間違っていたのかもしれない。でもあの日、僕は確かに救われたのだ。

「おーい、トンボ持って来い、トンボ!」

あの優しくて、力強い言葉が、今でも鮮明に思い出すことができる。

僕はこのままでいいのか。あの監督の優しさを無駄にするのか。一生、出来損ないで終わるのか。

答えはNOだ。

僕は監督みたいな人間になりたい。優しく、力強く、博識で、頼りがいのある。

今まで漠然としていた、将来の僕が、僕の目指すべき道が、急にハッキリとしだした。

僕は、いても立ってもいられずに、図書館に走って向かった。図鑑や研究の本ならきっと置いてあるだろう。

トンボを知るための、トンボ博士になるための、その一歩を、今踏み出した。


出題者:
参加するには または してください
パトロン:
アシカ人参
と 匿名パトロン 3 名
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Cindy