苦節7年。
長い時間をかけて作り上げた作品が、完成から一週間も経たずに割れたのにも関わらず、蝉之助がとても満足そうなのはなんでだろう?
No.1 つのめさんの問題文のオマージュです
転載元: 「【蝉ますか?オマージュ】桃栗三年苦節七年」 作者: そーこん (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/3390
簡易解答
作品である割り箸がキレイに割れたから。
解説
鍛冶屋の蝉之助は技術面において人一倍優れていると自身でさえだけ思うほどの能力を持っていた。
そして、今の時代、鍛冶屋としてやっていくにはなかなか難しいということも分かっていた。
自分自身の、そして鍛冶屋という職業全体の知名度も上げる必要があると考えた。そこで、蝉之助は手作りで純金の割り箸を作って売ることにした。
蝉之助が調べたところ、純金の箸自体はあるものの、純金の割り箸は未だ作られていなかった。作製に成功し販売すれば、珍しいことからメディアにも取り上げられて、自分の技術力の高さも評価され知名度も上がるに違いないと考えたからだった。
しかし、純金の割り箸作りを始めようと思ったものの多くの壁が蝉之助の前に立ちはだかった。
割り箸としての使いやすさ、割り箸を割る際に生じてしまう割れ目に残る角、純金は地金自体が柔らかく加工が難しいこと、金属を叩くことで生じる僅かなハンマーの跡、そもそも純金は割れないことなど、問題は山積みだった。
幾度となく失敗を繰り返し苦節七年、蝉之助はようやくほぼ純金の割り箸を完成させた。
表面は一切の跡さえ分からないほど美しく、形は純金の滑りやすさを考慮した元禄に、割った時にできる角をできるだけなくなるようにと一膳の箸の間に非常に薄く割れやすい金を含んだ合金を挟み、長さは縁起良く末広がりな八寸に。
割れ目、もはや接合部であるが、こそ純金ではなくなってしまったが、蝉之助が長年思い描いた純金の割り箸がそこにはあった。
テレビの取材にひとたび取り上げられると瞬く間に話題になり、様々なメディアからインタビューを受け、SNSでは広く拡散されて多くの人がこの割り箸を目にしたと言う。
いくら世界に一つの、世界で初めての純金の割り箸といえども、一つの割り箸であるからこそ、割って食事を口に運ぶ、という箸としての本来の仕事を果たすべきものである。
完成から数日経ち、インタビューも落ち着いたある夕飯時、蝉之助は純金の割り箸を自身の目の前に置いた。そして、温かい食事が食卓に並んだところで割り箸に手をかけた。
蝉之助はその時のパキッという金属が割れた音を生涯忘れることはないだろう。
後に、食卓の向かい側に座っていた蝉之助の妻は、その時の蝉之助の表情が今まで一緒に暮らしてきた中で一番幸せそうな顔をしてたと話しながら苦笑いを浮かべていた。