昔々あるところに、邪智暴虐なる王女がおりました。彼女は絢爛豪華な調度品、酒池肉林の食生活を求め、そのために民たちは重く苦しい税を課せられました。彼女の元には幾度も困窮する民が嘆願に赴き、その度に粛清されていました。ある時、生活が苦しく今日食べるパンすら無いのだという男に対し、王女は「パンがないならエスカルゴを食べればいいじゃない」と言い放ちました。そんな王女に男は「なんて立派な王女なんだ!」と感服したのだといいます。一体何故でしょうか?
かきくりーむけろっこさんのリサイクルです。
転載元: 「【蝸牛ますか?リサイクル】パンがないのでエスカルゴ食べてみました。」 作者: エルナト (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/3304
※最下部に要約あります。
「パンがないならエスカルゴを食べればいいじゃない」
平然とそう言ってのけた王女に男は絶句した。
この王女は、何を言っているんだ?
そんなエスカルゴなんてとうの昔に食べ尽くされ希少価値の高い食材を、一市民が食べられる訳──。
──コトリ。
不意に、それは男の前に差し出された。
綺麗な銀製の皿に、男がこれまでに見たこともないような料理がのせられていた。
「これは──」
男が戸惑っていると、王女はキョトンとした表情を浮かべた。
「あら、食べないの?」
「い、いえ!有り難く頂きます!」
王女の機嫌が変わらないうちにと、男はそのご馳走にありついた。
美味い。こんな美味いもの、食べたことがない。
男は泣きながら、その豪華な料理を一瞬で平らげた。そして、王女に対し深々と頭を下げた。
「ひとつ、あなたに命じます。今日、ここで『それ』を食べたことは、決して口外してはなりません」
「な、何故ですか!?」
「今この国が貧しい状況にあることは痛いほど私も知っています。しかし、残念ながら全員にご馳走を振る舞えるほどの食料はこの城にもありません。あなたが『それ』を口にしたことを国民たちが知れば……多くの国民がここを訪れるでしょう。申し訳ないことですが、それは困るのです。むしろ、聞く耳を持たれなかったと、そう言って回りなさい。もう少し……もう少し待っていただければ、貧困は解決するでしょう。それまで、静かにお待ちくださいませ」
王女の言うことは一理あると、男は頷いた。
この恩を仇で返すようなことを言って回ることは気が引けたが、男の軽はずみな発言で暴動が起きてしまっては申し訳が立たない。
「分かりました。王女様、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げた男は、そのまま城を後にし、自分の村へと帰っていく。
道中、男の知人とすれ違い声を掛けられた。
「なんだ、城から出てきて。もしかして、お前も……『粛清』を頂いてきたのか?」
知人のその言葉を聞いて、男はハッとした。
聞けば王女に貧困について訴えた者は、みな『粛清』されたのだという。
そうか。
そういうことだったのだな。
本当は、皆同じようにご馳走を振舞われていたのだ。
ニヤリと笑った知人の男に、男は黙って頷いてみせた。
「なんて立派な王女なんだ……」
男は感動した。
生まれて初めて人の温かさに触れたような気がした。
そう思うと、ふと、ふるさとが恋しくなった。
年老いた父と母は元気にしているだろうか。
そう言えば、数週間前まであれだけマメに連絡を寄越していた母から音信が無いことを思い出す。
良い思いをした後だ、たまには親孝行をしに帰るか。
そう思えたことに、改めて王女に感謝する。
それにしても、美味しい料理だった。
まるで高級な肉のような、なんとも頰の落ちる料理である。
牛肉や豚肉とは少し違うけれど、エスカルゴがあんな肉々しい食材だったなんて。
全く知らなかった。
今までエスカルゴなんて食べたこと無かったもんなぁ。
本当に美味しかった。
あぁ、田舎の両親にも、食べさせてあげたいなぁ。
***要約***
高齢化対策と飢餓対策のために老人たちが食料にされているとは知らず、今や希少なエスカルゴ(=国民が味を知らないであろうもの)として王女からご馳走(人肉)を振舞われ、その美味さと王女の懐の広さに痛く感動したから。