「またゴミか……」
川釣りをしていてカメオは、雨で川が濁っていた影響もあり全く魚を釣れず、何かを釣り上げる度にそう呟いては溜め息を吐いていた。
そんなカメオを見ていた近所に住む男の子にはバカにされ、その姉であろう女の子からも笑われていたのに、最後にカメオがそう呟いた後、今度は女の子から何度も頭を下げられたのはいったい何故だろう。
転載元: 「またつまらぬものを釣ってしまった……」 作者: エルナト (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/3244
「やっときた!当たりだ!」
レインコートに叩きつける雨は次第に強くなってきている。
釣りを始めて3時間、今度こそ本物の魚が釣れると期待して、リールを巻き上げていく。
さっき、上流で釣りをしていたら、見ず知らずの子供から散々バカにされてしまった。
「初心者でも魚が釣れる川なのに、そんなゴミばかり釣るなんて!おじさん、川の清掃でもしに来たの?ww」
一緒に付き添っていたその子の姉らしい女の子も、悪口をいう男の子を咎めるでもなく、ニヤニヤとカメオの方を見ていた。
(やばい、おじさんマジカッコいいwww)
その視線を見ていると、おそらくそんな感じのことを思っていたのだろう。
子供だからこその容赦ない悪口にへこたれて、カメオは思わず離れた下流まで逃げ出してしまった。
だがこれで彼らにもデカい顔ができる。どうだ!俺にだって魚を釣れるんだぞ!
しかし、雨脚が強まり川は増水してきているので、流石に危ないと思い子供達も帰ったことだろう。
せっかく釣れた魚も自慢できないが仕方がない。
これが釣れたら、流石に今日はやめにしようとカメオは思った。
そもそも、こんな雨であることも釣れない一因なのだ。
せっかく久々にとれた休みだからと悪天候ながら釣りを強行してしまったのも我ながら失敗だったと反省する。
と、そうこうしているうちに、獲物がようやく水面に見えてきた。
青い魚だ!どうだ!
思い切って釣竿を引っ張り上げる。
しかし、釣れたのは残念なことに一足の長靴だった。
「またゴミか……帰ろう」
溜め息を吐きながら、今日何度目かのその言葉を呟いたカメオだったが、ふと何かが気にかかった。
なんだ? 気になるのはこの長靴か?
何処かで見たような気がするのは気のせいか?
そして、気が付いた。
この子供用の大きさ、この色──。
『おじさん、川の清掃でもしに来たの?ww』
あの男の子の長靴だ。間違いない。あの子たちは、上流にいた。
この長靴はたった今上流から流れてきたのだ。
しかし、まだ子供が流れてきた様子はない。
そのことを理解した時には、カメオは既に上流に向かって走り始めていた。
そして、すぐに先程の女の子が泣き叫んでいるのが聞こえてきた。
見ると、対岸の岩になんとかしがみついているあの男の子の姿があった。
「待ってろ!今助ける!」
海育ちのカメオは、昔から釣りが好きだった。
しかし下手の横好きで一向に上達しないまま大人になってしまった。
だが、腐っても海育ちだ。
泳ぐのには、自信がある。
増水した川に多少流されることは見越して、少し上流から川に飛び込む。バシャバシャと泳ぎ、そしてちょうど溺れている男の子の所に到達した。
「やばい、おじさんマジカッコいい……」
呆然と見ていた女の子であったが、ハッと我に返り溺れた子供の元へ向かうため近くの橋から対岸を目指し走った。
カメオは周囲を見渡して安定した足場を探し、近く岩場に子供を引き上げた。
「よーし、もう大丈夫だ。落ち着いて、息を吸って。そうそう」
男の子は水を飲んだためか咳き込んでいたものの、意識はしっかりとしていた。
「おじさん、あの、本当にありがとうございました」
取り乱したように、女の子はペコリと頭を下げた。
「こんな天気で釣りをしてたおじさんが言えることじゃあ無いけど、ダメじゃないか、こんな増水した川で遊んでたら」
「ごめんなさい……」
ションボリしながら謝る男の子の頭を、カメオはポンと優しく撫でた。
「まぁ、助かったから良い。おじさんがこんな雨なのに釣りに来たいなと思ったのは、きっと君を助けるタメに神様がそうさせたのかもしれないな」
カメオが笑いながらそう言うと、女の子は泣きながら何度も何度も頭を下げた。
***要約***
長靴を釣り上げたカメオは、先ほどカメオをバカにした子供が溺れていることに気が付き、助けに向かったから。