カメオがふかふかのソファーに座るように勧めると、カメコは背筋を伸ばして腰掛けた。
カメオは不思議に思ったが、カメコの頭を一瞥すると、安いパイプ椅子を持ってきた。
一体なぜ?
転載元: 「お客様におもてなしのパイプ椅子を」 作者: 風木守人 (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/2744
カメコの頭に生えた獣の耳を見て、尻尾もついてるならソファは座りにくいと察したため。
「耳と尻尾の大混乱!トリップステイ!」
と揶揄された異世界交換留学制度。
日本に来た留学生カメコは異文化に興奮していた。
魔法のない世界、科学という魔法。
人間しかいない世界、それでも差別のある世界。
獣の耳と尾を持つ彼女は、ホームステイ先の家主カメオからソファーにかけるよう勧められ困惑した。
(尻尾が邪魔になってうまく座れないよっ!)
カメコの住む国では、椅子の背もたれと座る部分の間に、尻尾を通すための隙間があるのが普通だった。
しかしソファにはそれがないので、仕方なくカメコは浅くソファーに腰掛け、その様子を見たカメオは、彼女の獣耳を見て状況を把握すると、ひとまずパイプ椅子を持って来たのだ。
パイプ椅子にはたいてい背もたれと座る部分の間に隙間が空いているので。
「おおっ! 椅子が開く〜! 閉じる〜! 開く〜! 閉じる〜! 開きかけて〜閉じかけて〜閉じ、閉じ、と、と、と閉じないで〜閉じる!」
カメコの方は、折りたたみの椅子に興味を持ったようだが、なぜか開閉を繰り返すカメオもカメオでカメコの反応を気に入ったらしい。
「でもカメコの持ってきたマイ座布団もすごいのっ!」
「な、浮いた!!?」
「しかも、えいっ!」
「回った!! え、なにそれ!!?」
なお、カメコの座布団を長時間動かすには魔力とかいう不思議な何かが必要であるし、折りたたみ式のパイプ椅子は気をつけないと手を挟む。
つまり、
「「?!」」
カメオの乗った座布団が落ちて尻を強打し、カメコは手を挟んで声にならない声をあげた。
「パイプ椅子のほうがいいなこりゃ」
「むむっ、こっちの椅子は使いにくいわねっ!」
当たり前が違うことを知り、差異を楽しみ語り合い、自らの文化に興味を持つこともまた、この留学制度の目的である。
なお、一週間後ひょんなことから喧嘩した二人は、パイプ椅子と空飛ぶ座布団で「座布団フリスビーホッケー」という未知の競技を生み出し仲直りするのだが、それはまた別のお話。