美女教

カメオが「うお、すげえ美人」と呟いたのは、信仰心が厚かったからだ。
どういうこと？

「あなたはー、ヤタガラ神をー、信じますかー？」
仕事帰り、カメオが仕事場近くの公園のベンチで座って休んでいると（今よりは暑くない時期です）、一人の外人が話しかけてきた。どうやら宗教の勧誘のようだ。
「あなたはー、ヤタガラ神をー、信じますかー？」
同じセリフを繰り返す「ヤタガラ教」の勧誘者の外人に、カメオは早くも嫌気がさしてきた。
（うぜえな……知らねえよヤタガラ神なんて……。俺、ずっと昔からキリスト教徒だし……落ち込んでるときとか、いろんなときに救われてきたし、いまさら変えるつもりなんかねえよ）
無視しようとしたが、しつこく話しかけてくる外人。右に左にせわしく動き、さらにはカメオの肩までつかんでくる。かなり強引な感じである。一見しただけで、相当カルトっぽいと分かった。
もう充分休んだし、どうにかここを抜けられないかとカメオが考えていると、カメオの正面、外人の背後の少し離れたところを、見知らぬ女性・ウミコが通りかかった。かなりの美女で、スタイルも無駄に抜群である。
（……よし、これだ）
カメオは思った。素早く荷物をまとめて、ここを立ち去る準備を整えた後、ぼそりと呟く。
「……うお、すげえ美人」
「！？　え、どこ！？　どこどこ！？」
カメオの声に予想外に強く反応し、カメオの視線の先を追う外人。ウミコに視線が止まると、その無駄な美女っぷりに思わず外人の視線が釘付けになる。
その隙を見て、カメオは外人の手を肩から引きはがして、立ち上がって走って逃げだした。
「！？　ま、待ちなサーイ！」
外人が声をあげる。カメオとて美女に興味がないわけではないが、今はとりあえずどうでもいい。外人がウミコとカメオのあいだに視線をさまよわせて、本気で追いかけようか迷っているうちに、カメオは完全に外人の視界から消えてしまうのだった。

1行解説：信仰心の厚いカメオは、いきなり現れたカルト宗教の勧誘者がうざかったので、勧誘者の背後の通りがかりの美女の存在を勧誘者に気付かせるために呟いた。