男はひどく空腹だが、食べ物が全くないので、わずかでも腹の足しになればと思い、糖衣錠のコーティングだけを舐めている。独り暮らしの男は、近頃、食料品の買い出し以外はほとんど自室に引きこもって過ごしていた。
収入源がないのでそのうち金が底を尽き、ついに買い物に行くことすらできなくなった。
動かなくなると筋肉はどんどん痩せていき、身動きすらしにくくなっていく。
現在、他の人物との関わりが一切ない男は、助けを求めるにも心当たりが全くなかった。
部屋には肉や魚(動物)も、穀類や野菜(植物)もない。
生物の食物連鎖から外れてしまった孤独感…………
いや、それよりも、生き物の基本的欲求に根差す極度の空腹感に耐え切れず、だいぶ前に購入した常備用の大衆薬に手を伸ばした。
風邪薬、胃腸薬、鎮痛剤……
だが『病気でもないのにたくさんの薬を飲むとかえって命が危険なのではないか?』と思ったので、糖衣錠を口に入れては、甘味がなくなると吐き出すことを繰り返したのであった。
薬は使用上の注意をよく読み、用法用量を守って正しく使いましょう
< ピンポーン
後日談
家賃の引き落としができなかったので、不動産屋が男の部屋を訪ねた。
合鍵で中に入り、薬瓶を握りしめて眠っている男を発見。
自殺を図ったと勘違いして、慌てて救急車を呼んだ。
おかげで男は、とりあえず餓死せずに済んだ。