世界は混沌としていた。
カメオの生まれた村からは遠く離れた場所にかつてあったタウルス帝国は魔物たちに滅ぼされ、今その城は「魔王の城」と呼ばれ人間が到底近付くことの出来ない魔物たちの住処となっていた。
そんな中、数々の敵を倒し力を付けた勇者カメオとその一行は、ついに魔王の城に辿り着き、世界を混沌とさせた元凶である魔王の首を討つことに成功した。
しかし、世界に平和が訪れたはずなのに、カメオは絶望した。
いったいどうしたというのだろう。
転載元: 「世界に光を取り戻すため」 作者: エルナト (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/1469
***要約***
魔王に人間を襲う意思などなく、人間との友好を築こうとしていたにも関わらず、自分たちが一方的に魔物たちを悪者と誤解して攻め立て英雄気取りになっていたことに気付いたから。
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魔王を討ち場内を探っていたカメオは、ある違和感を抱いていた。
城の庭にある無数の墓石。どうやら人間が埋められているようなのだが、何十年も前に滅びたタウルス帝国のものにしては状態が良すぎるのだ。
そもそも元々は王様が住んでいた場所なのにこんな目立つ所に墓を建てるだろうか?
誰かがここに弔い、そして毎日手入れをしていたとしか思えない。
しかし一体誰が……?
疑問に思いながら、祖国への手土産を探すとともに場内を探っていたカメオたちは、ある一冊の書物を見つけた。
カメオはそっとその書物のページを捲った。
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本来なら、その日は私の夢が叶うはずの日であった。
タウルス帝国の国王・アルデバランと私が、握手を交わす日がやってきたのだ。
しかし、愚かだったのは私が無知であることだった。
当時の私は、人間の体の頑丈さや握力の強さなどを微塵も分かっておらず、彼の手はいとも簡単に砕けてしまったのだ。
怒り狂った人間たちは、武器を持って私に襲い掛かった。
待ってくれ。話を聞いてくれ。
しかし、彼らは聞く耳を持たなかった。
自らのいのちを守るため、掴まれた手を振り払い、剣の刺さった腕から剣を引き抜いた。奪う形になってしまったその武器は人間に返したつもりであったが、運悪く頭に刺さり彼は絶命した。
気が付けば、部屋の中にいた兵士たちは誰も動かなくなっていた。
謁見の間を出て城の頂きから国中を見渡すと、逃げ惑う国民たちの姿があった。
国からは、一晩にして人間がいなくなった。
途方に暮れた私は、呆然とその城で立ち尽くすことしかできなかった。
私は心を粉々に砕かれていた。
だが私は諦めた訳ではなかった。
当初思い描いていた、人間と魔族との、平和な日常を。
お互いがお互いを助け合い、共に生きていく幸せな日々を。
次第に人間は城にあまり訪れなくなった。
来ないのであればと思い、人間の街に足を運んだが、血相を変えた人間たちが私を追い返した。
同じ街に次に来た時には、頑丈な壁が何重にも張り巡らされていて、街の数十km離れた場所に私が近付いただけでも無数の砲撃が私を傷付けた。
居場所をなくした私は、仕方なくタウルス城で暮らすことにした。
人間の訪れない城。いつしか、タウルス城は「魔王の城」と呼ばれるようになたその城から外へ出ることも許されず、ただ退屈な日々が続いた。
数年に一度、勇者を名乗る人間が城を訪れた。私は話し合いを求めた。
「私と手を取り合って、平和な世界を築かないか?」
しかし、yesと答えてくれる人間は現れなかった。
あれから何年、いや、何十年の月日が流れただろうか。
噂によれば、ここから西にある魔族の村を治めていたプレアデス姫が、カメオと名乗る人間に殺されたらしい。そうして、今度は私のいるこの城へ訪れようとしているのだという。
今度こそ。今度こそ私は、夢を叶えよう。
人間と、そして魔族が心から信じ合い、協力し合うことのできる未来を──
***
手記はそこまでで終わっていた。