【断琴の交わり】
お互いをよく理解した強い友情のこと。琴の名人が、自分の演奏を理解する友人が亡くなったとき、琴の弦を断ち切った中国の故事から。
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A国とB国の国境近くに住む、A国人の料理人エー氏とB国人の美食家ビー氏がいた。
両国は長く友好的な関係を続けており、親友である二人はひんぱんに国境を越えてお互いを訪問し合っていた。
ビー氏がエー氏の料理店を訪れたときは、エー氏の得意料理であるA国名産の魚のグリルを注文し、舌鼓を打つのが常だった。
そんなある日、急にAB両国の関係が悪化した。
一夜にして国境にフェンスが築かれ、人の通行・物資の流通のみならず、通信も厳しく規制された。
エー氏とビー氏はお互い連絡も取れなくなり、家の周囲を我が物顔で歩く軍人を横目に、相手のことを心配する日々を過ごした。
30年もそのような時代が続いたあと、やっと両国の関係が改善した。
国境の封鎖が解けてすぐにビー氏はエー氏の元を訪れ、すっかり老いた二人は懐かしい魚のグリルを前にして再会を祝う。
「このグリルを作るのも久しぶりだ……最後に君に会ったとき以来、30年ぶりだな」エー氏がしみじみと言うと、
「ああ、そうか……」友の作った懐かしい味を舌に乗せ、ビー氏もつぶやく。「……やっぱりそうだったか」
さて、ビー氏はなぜ、エー氏がずっとこの料理を作らなかったことを察していたのだろうか。
転載元: 「断琴の交わり」 作者: GoTo_Label (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/141
エー氏はB国に、ビー氏はA国に住んでいたのである。
A国とB国は長く友好的な関係を続けていたがゆえに、このような例も珍しくなかった。
両国の関係悪化後、物資の流通が規制され、A国在住のビー氏の元にはB国の物資がまったく入手できなくなっていた。
それから類推して、A国特産の魚をB国在住のエー氏は入手できなくなっているだろう、と考えていたのである。
そんなエー氏とビー氏は万感の思いを込めて、あらためてワインを掲げて言うのだ。「なつかしき友との再会と、この一皿に乾杯」と。