忘れ物

サリーはここ最近やけに上機嫌だ。
それもそのはず、明日は彼女のボーイフレンドであるライナスとの五年記念日らしい。
五年も経つというのに二人は今でも仲が良く、
毎日のようにデートをして、家に帰ってからもずっと長電話をしている。

しかし、そんな幸せの絶頂にいたサリーが交通事故で帰らぬ人となってしまった。
さらにその報せを聞いたライナスは「俺のせいだ」と言い残し、
彼女の後を追うようにマンションの屋上から飛び降りた。

二人の身に何があったのだろうか？

サリーとライナスは、日本に住むアメリカ人。
お喋りなライナスは頻繁にサリーに電話をかけ、スマホの充電が切れるまで続くことも珍しくなかった。

ある日、二人が住んでいる地域一帯を直下型地震が襲った。
地震発生の瞬間サリーは車を運転していたため、コントロールを失って対向車線に突っ込み、命を落とした。
車を運転し始める直前までライナスの長電話に付き合っていたため、サリーのスマホは充電が切れてしまっでいた。
いつもは常備している携帯用充電器も、たまたま家に忘れていたのだった。

もし長電話をしていなかったとして、サリーのスマホが生きている状態だったなら、
緊急地震速報を聞いたサリーが車を停車させ、死亡事故は防ぐことができたのではないか。

ライナスは、激しい後悔に襲われた。