「店むえ遺伝子・・・?」そう呟いてカメオは、父親の顔を思い出した。何故?
転載元: 「今日という日を」 作者: tomo (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/1183
夕暮れ時、オレンジ色に染まる町の中を、カメオは息子と手をつないで歩いていた。
「みせ・・・む・・・え・・・いでんし・・・」
突然、息子が奇妙なことを口にした。
「店むえ遺伝子・・・?」
カメオはそう呟いて、息子を見下ろす。息子はどこか一点をじっと見つめていた。視線を辿るとそこには、築何年かも分からないような古めかしい店があった。さび付いたシャッターで閉ざされ、最新式の住宅に囲まれて、一層小さくみすぼらしく見えた。そんな店の上に、黒ずんだ、木の看板が掲げられている。そこにはこう書かれていた。
『店務工ぃでんし』
ああ。カメオは思わずため息を漏らした。自分が子供の頃の思い出が、その古い木の看板から蘇ってきたようだった。
公園で、父親とともに飽きもせずに遊び続けたあの頃。香ばしい匂いが漂う夕暮れの町を、父と手を繋いで帰ったあの頃。店が一斉にシャッターを下ろし始め、早く帰らなきゃと、父親の手をしきりに引っ張ったあの頃・・・
カメオは手を引かれる感覚で我に返った。見ると、息子が頬を膨らませて自分を引っ張っている。すっかりお腹がすいてしまったらしい。カメオは思わず苦笑して歩き出した。そして思う。息子にも、今日という日のことを懐かしく思い出す日が来るのだろうか。自分のことを、良い父親だったと思い出してくれるのだろうか。
カメオは沈む夕日に向かって歩きながら、今は亡き父親の、あの優しい顔を思い出していた。